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最高の紹介 | Hello, Coaching!
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私が前職のコンサルタントだった頃の話です。

当時の上司、Hさんは、バリバリのトップコンサルタント。社内では常にトップセールスの実績を上げており、月の大半は出張で全国を飛び回っている人でした。

部下の鍛え方も半端ではありませんでした。

新人コンサルタントだった私は、彼のほとんどのプロジェクトにアサインされ、まるで秘書のような状態でした。彼のコンサルティングに必要な、基礎的なデータ作成(調査、分析、ヒアリング、資料作成、ツール開発)はもちろん、彼の出張先から出張先への移動プラン立て、チケットの手配、スケジュール調整などといったありとあらゆる業務を受け持ちました。

彼との打ち合わせは、土曜の夜か日曜の夜に行うしかないほど殺人的な忙しさであり、また、急に呼び出されたり、逆に急にキャンセルになったりと、いわゆる理不尽な業務が何年間も続きました。

確かに、つらかった。なんで、こんな理不尽な人と一緒に仕事をしているのだろう......と。でも、こうした状況が続く中で、結局は彼を尊敬し、彼についていった理由があります。

そのひとつに、「アクノレッジメント(承認)」があったのだと思います。

「わるいな、助かるよ」
「お前がいないと、ここまでできなかった」
「今日は、おごるからさ。つきあえよ」
「中島、ちょっとは成長したじゃねーか」

殺人的な忙しさの中で、たまにもらえるアクノレッジメント。このガソリン補充がなかったら、エンストしていたかもしれません。


そして、今でも忘れません。私にとっては、記憶に残る紹介です。

ある大手企業への大型プロジェクトのキックオフミーティングのときでした。重厚な椅子にゆったりと座っている十数名の役員の目が、Hさんに向かっていました。彼の後ろには、コンサルタント5年目の私。

このプロジェクトリーダーを担当するのが私であることをHさんが紹介し、キックオフミーティングがいよいよ始まる、という緊張のときです。

彼は、役員を前に、低い声で、ゆっくりと、語り始めました。

「人の心をつかみ、動かす能力は、手に入れたくてもなかなか入るものではありません。今回のプロジェクトでは、御社の社員の方々の心をいかにつかみ、どう動かすかが肝となっています。しかし、残念ながら私には、その能力がありません......」

私は、びっくりしました。会場の役員も一瞬、ぎょっとした雰囲気に包まれました。それはそうでしょう。この大事なキックオフのプレゼンで、「私には能力がありません」と言い放ったのですから。

しかしHさんは、2秒くらいの間をあけて、こう続けました。

「しかし、ここにいる彼には、その能力が備わっています。私から言わせると、彼は、人の気持ちを動かすプロです。今回は、彼がこのプロジェクトのリーダーです。実は、私もこのプロジェクトを通じて、勉強させてもらおうと思っています(笑)。紹介します。リーダーの中島君です。どうかよろしくお願いいたします」

私の頭の中は完全に真っ白になりました。そのあと、とにかく精一杯話したことだけは覚えています。

そして猛烈に勉強しました。死ぬほど働きました。Hさんに恥をかかせたくないという一心で。

結局、人の心をつかみ、人の気持ちを動かすプロの上司、Hさんにつき動かされて。

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