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インプットとアウトプット

インプットとアウトプット | Hello, Coaching!
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昨年、ある大手メーカーの社内イベントに招かれました。社員の方向性を揃え、「一枚岩」にするためのイベントです。約300名の参加を希望する社員が、このイベントのために集まってきていました。

このイベントは、パート1とパート2の二部構成。

パート1では、その会社の商品を実際に使っているユーザーさんが登場し、商品を通してどのような体験を得たかを語りました。そしてパート1の最後には、経営トップから、会社がどのような方向に進もうとしているのか、長期ビジョンが発信されました。

パート2は、パート1を受けて、その感想を300名の社員で共有するという時間でした。

このパート2の進行役を私が仰せつかりました。「インプット」であるパート1に2時間、そして「アウトプット」であるパート2にも同じ長さ、2時間を費やしました。パート2の2時間は終始、熱気に包まれ、終了後、多くの参加者が「ぜひこの経験を他の社員にも味わってもらいたかった」と、上気した顔で感想を伝えてくれました。

2時間のアウトプットの時間は、大変盛り上がった時間になるだろうと思っていましたが、想像以上でした。2時間かけてインプットしたものを、なぜ改めてまた2時間かけてアウトプットするのか。

理由は3つあります。

一つ目は、アウトプットすることで、インプットしたものがより強く頭に残ります。引き出しに「入れる」という作業に加えて、自ら「出す」という作業をすることで、記憶はより定着します。本を読んだり、誰かの講演を聞いたときに、得た情報を自分の内側にだけしまっておくのではなく、人に話すと、それはより強固に脳に刻み込まれます。

二つ目は、他人がその事象をどう捉えているかに触れることで、インプットしたものを多角的に見る機会を得ることができます。例えば、このパート2の最後に「自分がなぜこの会社に入社したか、その理由を思い出しました」と発言した人がいました。この感想を聞いて、そこまでは、まったく自分の入社理由とイベントをリンクさせていなかった人も、同様の思索を広げる可能性があるわけです。

三つ目は、もしインプットするだけであれば、「私の体験」にとどまってしまうわけですが、お互いに感想を伝え合うことで、それは「私たちの体験」に昇華されていきます。一緒にそれを体験した同士である、という認識が強く生まれるのです。


以前、ある企業で、ビジョン浸透のためのお手伝いをさせていただいたときのことです。

経営トップからビジョンが打ち出されたけれども、どこか一方的で社内に浸透していない。まずは現場を預かる部長層に、何がなんでもこのビジョンを実現するという強い意志を持ってほしい、そんな思いが経営企画のスタッフにはありました。そこで、改めて社長に部長の前でビジョンを語っていただき、その話をベースに、部長たちにビジョンについてどう感じるか、自由に思いを話してもらいました。

2時間を3回。

実施する前は、「そのビジョンに異を唱える部長もいるのではないか」「収拾がつかなくなってしまったらどうするのか」「かえって混乱するのではないか」といった経営企画の方の不安もありました。ですが、実際やってみてわかったのは、部長たちは反発をしているわけではなく、ただ感じていることや思っていることを共有する機会がなかったということです。

結果、先ほどのアウトプットによる3つのメリットを手にすることができていなかった。

はっきり頭に残っていないし(1)、周りがそのビジョンについてどんなことを思っているかわからないので、自分が感じていることをどうジャッジしたらいいかわかっていなかったし(2)、一緒にそのビジョンを共有している感じも薄かった(3)わけです。


演出家の宮本亜門さんとお仕事をしたときに、聞いた話です。

ブロードウェイで彼が初めてミュージカルを演出したとき、その練習の初日、アメリカ人の俳優を集めて、自分がどんな舞台を作りたいか一方的に伝えてしまった。俳優たちはすっかり反発し、宮本さんに背を向けてしまった。

焦った宮本さんは、次の日、俳優たちに、「君たちが昨日の僕の方針を聞いてどう思ったか教えて欲しい」とお願いした。そして、長い長いミーティングを行った。

喧々諤々のやりとりの後、最終的には宮本さんが最初に打ち出した方針でいこうという話にまとまったそうです。

この経験を通して、宮本さんは、自分のビジョンに対する意見を恐れずに聞く機会を設けることの大切さについて痛感したといいます。


みなさんがリーダーとしてチームの方向性を揃えたいとき、30分のインプットをメンバーに行ったら、30分のアウトプットを促してみてはどうでしょうか? 多少ネガティブな意見に対処する必要はありますが、明らかにこの方が、共有は促進されると思います。

一丸とならなければならない今だからこそ、インプットだけで終わらせずに、アウトプットの時間を持ちたいところです。

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