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続・母と補聴器
コピーしました コピーに失敗しました私の母は85歳を越え、最近ますます耳の聞こえが悪くなりました。耳元で大きな声で話しても、ときどきつじつまが合いません。
「聞こえてる?」と確認すると、「聞こえてる。わかったわかった」と答えるのですが、後でとんでもない行き違いが起こったりするのです。
母は数年前から補聴器をつけていますが、期待したほど聞こえるようになりません。業を煮やした母は、最近、自分で別の専門店を探し出し、補聴器を新調しました。
聴力検査の結果が出たので家族と来てくれということになり、私が一緒に行くと、
・音が聞こえる度合いは40%程度に低下している。
これは補聴器によって60%程度まで上げることができる。
・音を聞き分ける能力は30%程度に低下している。
これは補聴器によって補うことができない。
つまり、人の話は音として聞こえても、言葉として認識できていない。
母の場合、長い間、音の聞こえが悪くなっていたために、音を聞き分ける能力が落ちてしまった。使わなかったためにその部分が錆びてしまったわけです。ですから、いくら補聴器で音量を上げても、言葉を聞き分ける能力そのものが回復しなければ、人の話を「聞ける」ようにはならないということなのです。
そこで、能力を回復させるために最も効果的なトレーニングとして「音読」を勧められました。
目で文字を見る、自分で発音する、それを耳で聞く。この繰り返しが、脳が音を言葉として認識するためのもっとも効果的なトレーニングなのだそうです。80歳を越えても、音読することで機能は少しずつ回復するとのこと。母はそこに一筋の光明を見出し、日々音読に励んでいます。
先日、部下から営業進捗の報告を受けたときのことです。
K君「先方の担当者は、コーチングの研修に興味がありそうなので、次回は、2日間の研修の提案を持って行くつもりです」
T君「先方の担当者は、一見乗り気のようにも見えますが、実のところ研修に興味はなさそうです。まったく違うアプローチが必要だと思います」
同行していた2人の部下の報告はまったくニュアンスの異なるものでした。
同じ相手から同じ話を聞いても、そこから何を聞き、何を察知するかは人によって異なります。どのような立場で、どのような視点を持って聞くかによって、聞こえるものは違うのです。
意識を向けたこと、聞こうとしていることだけが聞こえる。意識を向けることができなければ、それは聞こえてこない。私たちは脳で聞いているのです。
聞く能力を高めるための方法のひとつは、聞き分けるための視点を増やすことです。
・何を求めているのか
・何が障害になっているのか
・どのようなスタンスに立っているのか
・話の内容と言葉の調子や態度はマッチしているか
・ニーズは何か
・どのような価値観を持っているのか
・強みは何か
・どのような動機で動くのか
・言外にあるものは何か
・どのような調子で話しているか
・どのようなストーリーをもって話しているのか
・エネルギーのレベルはどのくらいか
視点を持って話を聞く。そして、そこから察知できるものに意識を向ける。視点が増えれば、それだけ聞き分けることができるようになる。
意識して使わなければその能力は開発されません。トレーニング無しに能力が向上することはないのです。
母が音読をするように、私たちにも聞くトレーニングが必要なのだと思います。
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