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努力は成功の後に
コピーしました コピーに失敗しました先日、あるゴルフコンペに参加しました。たまたま同じ組にレッスンプロの方がいて、いろいろと教えていただきながらラウンドしました。
21歳ではじめてクラブを握って以来、かれこれ20年ゴルフを続けています。ただ、普段は練習場にはまったく行きませんし、2ヶ月に一度ぐらい、周りの方からお誘いをいただいてゴルフ場に足を運ぶぐらいです。
ゴルフ場の雰囲気は好きですし、一緒に行った方とあれやこれや話しながらプレーをするのもとても楽しいものです。でも、ゴルフというスポーツを「心から好きだ!」と思ったことはこれまでありませんでした。だから当然スコアはよくなりません。この数年間110の周辺を行ったり来たりしていました。
そんなあり様ですから、コンペの主催者から、「鈴木さん、今日はプロが一緒だから教えてもらうといいよ」と言われても、「よしやるぞ!」みたいな感じが起こったわけではありません。
ラウンドが始まりました。プロは満面に笑みをたたえて、私に話しかけてきます。
「鈴木さん、クラブは左手で振るんですよ。左チョップする感じ。水平に『ばし!』ってやってみてください!」
どちらかというと、イメージを浮かべてから行動を起こす方なので、そのプロの言葉はすんなり頭に入ってきます。その通りにやってみると、確かに飛びが違う。
「鈴木さんて、ラグビーやってたんですよね。僕も高校のときラグビー部だったんです。ラグビーボールを蹴るときってどうします?」
「どう?」
「ちょっとやってみていただけます?」
ゴルフ場の芝の上で、ラグビーボールを蹴るふりをしました。
「ほら、ボールを蹴る直前まではかなりふわっと足を上げて降ろしますよね。で、蹴る瞬間にびしっ! クラブの振り方もそれと全く一緒です。ふわっと上げて、インパクトの瞬間に左手でばしっ! やってみてください」
今でも週に1回クラブチームでラグビーをやっていますから、ふわっ、ばしっ! はとてもよくイメージができます。
そのイメージを持って、ドライバーをふわっ、ばしっ!
インパクトの瞬間にボールに力が伝わった! という感触がありました。今まで見たことのない軌道でボールは打ちあがり、真っ直ぐ、ぐんぐんぐんぐん伸びていきました。そして、落下。
一緒に回っていた他の2人の方が、
「ひゃ~!!! すっごい飛んだね。これまでの弾道と全然違うじゃない」
フェアウェイのど真ん中に落ちたボールは、なんと310ヤードを記録(あまり詳しくない方のために言うと、飛ばし屋の石川遼くんの昨年の平均飛距離が291ヤードです)! これまでせいぜい飛んで240ヤードぐらいだったのが、なんと310ヤード。打った自分が驚いてしまいました。
プロの教え方がうまかったということが伝えたくて、実はこのコラムを書いたのではありません。
確かに、プロのイメージに訴えかける教え方は傑出していました。ですが、伝えたいのはそれではなくて、310ヤードを打った後の自分の変化です。
一言で言えば、ゴルフが好きになってしまったのです。
なんと次の日、今まで行ったこともなかった練習場に足を運び、ゴルフの雑誌を2冊買い読みふけり、そして、そのレッスンプロの方の個人レッスンまで申し込んでしまったのです。
普通、うまくいかないから人は努力すると考えます。しかし逆で、人はうまくいくと努力を始めるようなのです。私のように。
聞いた話ですが、王選手が巨人軍に入団したとき、最初についたあだ名はなんと「怠け者」だったそうです。信じられないですよね、あの王さんが。ところが実際は、ホームランを打つようになって、はじめて必死の努力が始まったらしいのです。
私のコーチングのクライアントでも、似たようなことがありました。部下のマネジメントがなかなかうまくいかないという人に、部下をタイプに分けて、対応方法を変えるという手法を紹介しました。その手法を使って、彼は部下に関わり、部下ととてもうまく行くようになりました。
それまでは、「部下とコミュニケーションを頻繁に取るなんて面倒くさい」「できるやつだけが上がってくるんだよ」「だめなやつは辞めればいい」と公言していた人です。それが、タイプ分けを使って成功してからというもの、私に「マネジメントに役立つ本を紹介してほしい」とお願いしてくるわ、頻繁にマネジメントに関する質問をメールで送ってくるわ、新しい自分の部下への取り組みについてシェアしてくるわ、なんと努力が始まってしまったのです。どうも人は、一般に考えられているように、できないから努力をするのではなく、成功すると努力を始めるようです。
みなさんの部下に「怠け者」がいるとしたら、まずとにかくどんな手を使ってでも一つ手柄を立てさせることを考えてみたらどうでしょう。
そういえば昔、ある大学の駅伝チームの監督から、生徒に自信をつけさせるために、相手チームの監督にお願いして、負けてもらうようにしたことがあると伺ったことがあります。きっとこの監督は、成功と努力の関係について同じような認識を持っていたのだと思います。
部下は成功の後に、大いなる努力を始めるかもしれません。
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