Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
意図をもってコーチする
2009年09月09日
企業風土を変える一番確かな方法は、すべての社員を成長させるという「意図」を会社の中で「共有」することだと思います。
年長者に聞けば、例外なく、「部下を育成しようと思っている」そう答えます。だからといって、本当に部下を育てているかどうかは、また別の問題です。思っていることをそのまま行動に移すためには、単に思っているだけではだめで、そのことを、優先順位の一番にもってくる必要があります。
自分の子どもですら「育てよう」という意図があいまいな人が増えている中、ましてや他人、それも、自分を追い越してしまうかもしれない部下を育成する必然性を感じる上司が、そうたくさんいるとも思えません。
コーチングスキルというものがありますが、そもそも、育成の「意図」のない上司が学んでも、それを使う機会はありません。
反対に、たとえ乱暴なやりかたであっても、もともと、部下を育てるという「意図」をもっていた人たちがコーチングスキルを学ぶと、それを活かす機会はたくさんあるようです。
コーチングスキルというと、傾聴や承認の重要性が挙げられますが、それを使うとき、ベースには、部下を「開発する、育てる」という意図のあることが求められます。スキルを習ったからといって、それを実際に活かすことができるかどうかは、また別の問題なのです。
では、その育てようという「意図」はどこから来るのでしょうか?
ひとつには、自分自身が手塩にかけて育てられたという「体験」をもっていること。
もうひとつは、自分が確かに人の成長に貢献できる、という手応えをもつこと。つまり、自分の影響力を実感し、それを伸ばすこと。野球やテニス、ゴルフをするとき、自分のスイングでボールを捕まえる感覚に近いかもしれません。
「育てられた体験をもつ」ことは過去の積み重ねで、今から手に入れようと思っても難しいのが現実です。しかし、人の成長に貢献できるという手応えについては、いつからスタートしても、手に入れることが可能です。
部下を育成するという「意図」は、「確かに自分は相手に影響している」という手応えからも生じることが、わかってきています。
部下に対してコーチングスキルを使えば、部下の変化や行動全般から、自分がフィードバックを受けることになります。そのようにして、自分の影響力を実感するようになると、責任、そして、育てようという「意図」も育っていきます。
こうして考えると、コーチングスキルを学ぶ際にも、まとめてスキルを学ぶのではなく、ひとつ学んだらそれを実際に使って、フィードバックを受け、自分自身の影響力を確認しながら、「意図」を育てていくほうが効果的だということがわかります。したがって、スキルの学習には、ある程度、長期的、継続的に取り組む必要があると思います。
さて、育てるという「意図」が組織の中で共有されるようになると、社内におけるコミュニケーションが機能するようになります。
ご存知のように、コミュニケーションは、突然、それだけが機能するわけではなく、前提となる「場」が必要です。信頼関係やプロジェクトがあってはじめて、コミュニケーションは交わされるようになるものです。特に、上下関係においては、上司の部下を育てる、成長させるという「意図」が、大事な「場」になります。
その「意図」の上であれば、部下は上司の言うことを聞く耳をもち、上司もまた、部下の話を聞く耳をもちます。
成長は、誰しもが欲しているものであることを考えれば、部下の成長に貢献することが自分のミッションであると思っている上司のあり方が部下に影響し、部下が耳を傾けることは当然だといえると思います。もし、上司にその意図がなければ、どんなに筋の通った話であっても、部下は、それを聞き流してしまうでしょう。同じように、上司もその意図がなければ、部下の話を聞く理由はないのです。
こうしてみると「開発する、育成する」という「意図」が、組織における「コミュニケーションのインフラ」になっていることがわかります。
コーチングスキルは、とても効果のあるものです。しかし、それをただ学ぶだけでは不充分です。スキルを学ぶと同時に、育てるという「意図」を確信するプロセスも省くことができません。
この記事を周りの方へシェアしませんか?
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。