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組織の慣性をマネジメントする

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「研修を受けたときはいいんですけど、職場に帰ると、ついつい忙しさにかまけてできないんですよ」
「なかなか企業風土を変えるところまでいけませんね」

これらは、クライアント企業の人材開発担当者の方からよく聞く言葉です。

物理学では「運動している物体は、外から力を加えない限り同じ運動状態を続ける」ことを「慣性」といいます。

ヨットが方向を変えるのは簡単ですが、大きくなってくると、だんだん難しくなり、大きなタンカーになると、もう、すぐには曲がることはできません。

これは、組織も似ています。組織が大きくなると、慣性も大きくなり、無視できない存在になるのです。

組織の慣性には、次の3つがあります。
1.本人の慣性
2.職場の慣性
3.会社の慣性

1.【本人の慣性】は、自分自身の中に流れる慣性です。
これまでの人生の中での成功体験や失敗体験などが積み重なった結果、自分の行動や態度などが強化されていきます。ですから、それ以外のことは、なかなか体内に取り入れようとしません。

よく研修を受けたとき、言いませんか? 「目からうろこが落ちた」と。一体、何枚落ちたら気が済むのでしょう(笑)。一向に行動に移らない。変わらない。結局いつもと変わらぬ人です。


2.【職場の慣性】は、職場の中で流れる慣性です。
集合研修を受けて、「目からうろこ」が落ちたものの、職場に帰れば、そこにはいつものメンバーやいつもの部下がいつもの状態で待ち構えているわけです。熱くなっているのは、自分だけ。何か試そうにも、部下たちは冷ややかにこう言います。

「部長、昨日の研修で、何かあったんですか? ......急に褒めたりして、ちょっと変ですよ」

こうして、部下から「嫌なこと」を受け取ったり、職場で試していても、手ごたえを感じるのに時間がかかり「欲しいものが手に入らないこと」が続いたりすると、
【職場の慣性】に押し流されて、元に戻ってしまうのです。


3.【会社の慣性】は、常時接している【職場の慣性】と違い、接する頻度は少ないものの、会社に流れる非常に影響力のある慣性です。
仮に支店、営業所、店舗において、活性化に向けて【職場の慣性】が働き始めたとしても、その組織に対して外から影響を与える人たちが必ずいます。店舗を統括するエリアマネージャーや販売部長、そして、経営陣たちなど。これがもっとも手ごわい慣性でもあります。

こうした影響を与える人たちが、たまに現場を訪れては、現場が求めてもいないような否定的なメッセージを出してしまえば、せっかくの新しい慣性を潰してしまうことにもなりかねません。

先日も、ある企業から次世代幹部育成プログラムの依頼がありました。

これまで、カリスマ創業社長により牽引されてきたこの企業。気づくと「次世代リーダーがひとりも育っていなかった」という現実。そんな背景から集合研修が開催されるに至ったわけです。

初日、社長からの挨拶で研修は始まりました。

しかし、彼の口から出た言葉は、参加者の誰もが驚く内容だったのです。
「君たちには、期待していないから......」
「その年齢の君たちが研修なんか受けても、もう変わらんだろう?」

一気に潰されてしまいました......。とても残念なことです。


 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

こうした中、変革活動に3つの慣性をうまく活用して成果を上げている企業もあります。

その会社は、すでにコーチングを導入されて5年目になります。社長は「上から変わらないとダメ」をモットーに、店長たちに混じって、自ら先頭を切って研修を受けました。

また、毎週の幹部会議では、

「コーチングの基本は、双方向、個別対応、継続的。上司と部下のちょっとした会話が変われば、部下の可能性が変わるんだ。君たちが見本となれば必ず徹底できる!」

と、毎回のように、コーチングに関する一言を語るそうです。今では、1,500人の管理職がコーチングの基本研修を受けていますから、「コーチング」は社内の共通言語になっています。

一般的に、こうした社内水平展開は、人数が多いときは時間がかかります。最初に受けたメンバーは熱が入っていても、後半受講するメンバーは「何でこの研修受けるのかな?」と、本来の目的を見失いがちになります。

事務局側も、ともすれば、研修を全員に展開すること自体を目的化してしまうことがあります(実施担当者が、人事異動などで引き継がれたときによく見られる傾向です)。

しかし、この会社は、違います。研修の初期からモデル店舗を作って、そこで実践的な成功事例を作ることを並行して取り組み始めていたのです。

こうしたモデル店舗での成功事例があると、周囲はイメージできるようになります。先ほどの「何でこの研修受けるのかな?」といった受講生がいたとしても、「あっ、この研修で受けたことを実践すれば、あのモデル店舗での成功事例につながるんだ!」とイメージできるのです。

また、このモデル店舗でのプロジェクトには、私たち外部のコーチだけではなく、事務局として参加していただいた方にも、コーチングの勉強をしていただき、私たちと一緒にプロジェクトを進めてきました。今では、社内コーチとしても活動し、社内に仲間たちを増やしていく計画も持っています。

さらに、この会社では、コーチングの浸透具合の「見える化」にも取り組んでいます。

コーチングを知っている人、使える人、効果を出せる人......というようにレベル化し、社内のコーチングマインドをもった管理職が、どのレベルに、どのくらいいるのかを把握することにチャレンジしていらっしゃいます。

【本人の慣性】【職場の慣性】【会社の慣性】

変革活動を成功に結びつけるには、この3つの慣性のマネジメント、どれひとつ欠けてもいけません。

みなさんも、今取り組んでいる活動をチェックしてみてください。

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