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筋トレのように少しずつ鍛える
コピーしました コピーに失敗しました組織においてリーダーシップを発揮したり、部下の能力を発揮させるように関わったりするスキルをトレーニングする「コーチ・トレーニング・プログラム(以下CTP、現在のコーチ・エィ アカデミア)」は、今年に入ってから9月末までで、延べ4800回のクラスが実施されました。1クラス55分ですので、約4400時間分のトレーニングが行われたことになります。
私は、その中で比較的初級者向けのクラスを担当しています。参加者は「これから1年以上、コーチのトレーニングに参加する」という方々ですので、意気込みは高く、電話会議の向こう側からは荒い鼻息が伝わってくるようです。(実際に聞こえてくることもあり、そのときは「受話器の角度を調整してください」とお伝えしています......)
CTPは参加期間約1年~1年半、計126クラスという構成になっています。このような期間の長いトレーニングは、多くの方にとって学校の授業以来なのではないのでしょうか。
ところが、企業研修は短期間で行われることが多いので、それに慣れてしまっている参加者の方は、「いかに早く詰め込むか」「いかに覚えるか」という気持ちで取り組まなければいけないと思ってしまうようです。
特にトレーニングの初期の段階においては、こうした傾向が強く見られ、まだ126クラスの2、3回目であるにもかかわらず、「先週学んだことを全部実践できていない......」とあせる方がいらっしゃいます。私はそんなとき、このように伝えています。
「大丈夫です。このトレーニングは、筋トレのようなものです。筋トレを一気にやっても瞬時に筋肉モリモリになることはありませんよね。クラスが終わったら、2日くらいかけて学んだことを実践してください。そして、1週間後のクラスの前に復習すると再度思い出しますので、そのときにもう一度実践してください」
すると、参加者の方は「あ、それくらいのペースでいいんですね」とホッとした声を出されます。
新しいスキルを身につけることは、筋トレとまったく一緒です。少しずつ、そして継続的にやることによって力がついてきます。
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先日、ある参加者の方とお話しする機会がありました。
その方は、大手企業の人事管理職で、人事・人材育成・採用・労務を一手に引き受けていらっしゃいます。
その方は、トレーニングによる成果を次のようにお話しされていました。
「CTPに参加している中で、身の周りで最も変化があったのは、部下からの相談が増えたことなんですよ。よく『ホウ(報告)・レン(連絡)・ソウ(相談)が大事』と言いますよね。それまでも部下から報告、連絡は受けていたんですけど、相談を受けることはほとんどなかったんですよね」
「何でそうなったんでしょう?」
「前は、何か聞かれると、『それはこうやって』とか『こうしたらいいんじゃない?』と指示やアドバイスをしていたんです。それを、『君はどう思うの?』と尋ねるようにしてみました。すると、部下がきちんと自分で調べて動くようになったんですよ。不思議ですよね。指示やアドバイスしているときは相談されなかったのに、尋ねるようにしたら相談されるようになった。本当は逆のように思うんですけどね。ただ、報告・連絡は義務ですけど、相談というのは相互の信頼関係がなければしないですよね。相談を受け、質問で返し、部下は自分で動く。結果、部下がどんどん有能になっていったんです」
この方は「すぐに答えを言うのではなく、相手に聞く」ということを少しずつトレーニングされたのでしょう。それが「どうも最近相談される回数が増えてきた」という形によって成果が実感できたケースです。これは、「あれ? 最近腹筋が割れてきたな」という感覚とどこか似ています。
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コミュニケーションのスキルは、それを行う場が日常の中に存在しているからこそ、毎日トレーニング的な要素を取り入れることができます。逆に何もしなければ、以前と同じように日常は続きます。
毎日少しの積み重ねによる長期的な鍛錬の成果は計り知れません。
この人事管理職の方のお話を伺った後、私は筋トレのトレーナーになったつもりで、「今ここを鍛えているのよ」とクラスに参加している方々にお伝えしながら、クラスの運営に取り組んでいます。
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