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小さな質問

小さな質問 | Hello, Coaching!
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先日、ある上場企業の社長の講演を聴きました。起業5年で上場を果たし、このご時勢に破竹の勢いで収益を伸ばしています。

講演後の質疑応答で、「なかなか変わらない社員をどうすれば変えることができますか?」という質問がありました。

社長は、『脳が教える! 1つの習慣』(ロバート・マウラー〔UCLA医科大学准教授〕著)という本を引き合いに出し、こう言いました。

「基本的には人は変化を恐れるものです。怖がっている人に、いいからやれというのもあると思うのですが、実際にはうまくいかないケースが多い。怖いということさえ忘れてしまうほど、小さなステップに落としてしまうのが大事ですね。私も最近気がつきました」

講演が終わり会場を出た私は、すぐにiPhone(アイフォン)でアマゾンにアクセスし、その本を購入しました。

その本がまず読者に伝えているのは、人の脳は三層からできているということ。

下から、
「爬虫類の脳(大脳基底核。体温調節などを司る)」
「旧哺乳類の脳(大脳辺縁系。闘争/逃走反応を司り、感情に関係する)」
「新哺乳類脳(大脳新皮質。創造的なことを生み出す)」

で、大きくはしょって結論から言えば、大脳辺縁系がスイッチオンになっているときは大脳新皮質が作動しない。言い方を変えると、恐怖を感じてしまうと頭が白くなって創造的なアウトプットができなくなる。さらに言い方を変えれば、目標が大きすぎると(その人にとって)、「変わらなければいけない」「できなかったらどうしよう」という「恐怖」が先立ってしまって、何もできなくなるということになります。

「毎日運動して半年で5キロ痩せる」という壮大な目標を立てても、大抵は「辺縁系ブロック」にあって成し遂げることができない。だから、非常に小さいステップに落とす。最初はテレビの前で1分間足踏みをするだけでいい。そうすると辺縁系がアラームを出さないので、アクションが起こり、習慣化し、さらにどんなアクションをしようかと「頭」がまわる......。

そんな内容を、この本は伝えてくれています。

実はこのことは、質問を受ける場合にも当てはまるそうです。つまり、大きな質問をされてしまうと辺縁系が恐怖を感じ、新皮質が動かない。「将来どうしたいの?」などといきなり言われるとフリーズしてしまうことがありますが、あれですね。「答えられなかったらどうしよう」という恐怖が創造性の脳が働くことを抑えてしまう。だから、「脳が喜ぶ」小さな質問をするのがいいのです。そうすると、辺縁系を「発火」させずに、新皮質に直にアクセスすることができる。

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先週、ある企業の事業本部のトップをコーチしていました。

その事業は、現在苦境に立たされていて、このままの状態が続けば早晩、事業から撤退を余儀なくされることがわかっています。本部長は、憔悴しきった顔を私に向けて言いました。

「どうすべきなのかずっと考えているんだけれども、全くアイディアが浮かばない」

私は本部長に、「『この先どうしたらいいのか?』では質問が大きすぎるので、辺縁系が恐怖を感じ、新皮質へのアクセスを制限していると思います。だからこの場合、小さな質問が必要です」という説明をしました。そして、一緒になって小さな質問を作り始めました。

「5年後のオフィスの場所は?」
「何人の部下と仕事をしていたい?」
「売上はいくら?」
「部の数は?」
「5年後の競合相手は?」
「5年後の顧客は誰か?」
「5年後の開発リーダーは誰か?」

お互いに質問を出し合い、ホワイトボードに書き出していきました。その数、最終的に35個。最後に本部長がおっしゃいました。

「なんだか将来を考えるのが楽しくなってきました」

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先が見えにくければ見えにくいほど、一気に最良の答えを手にしようと、自分に、部下に大きな質問をしてしまって、フリーズを起こしている組織は少なくないように思えます。
 
そんなとき、辺縁系を沈め、新皮質を喜ばせる小さな質問をチームで考えてみるのは、ひとつのブレークスルーになるかもしれません。

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