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Change Management
2009年11月25日
変化が必要、ということは、誰しもが理解しています。実際、環境はめまぐるしく変わり、常にそれに適応する能力が問われています。
とはいえ、変化に対応しているだけでは、実のところ変化には対応しきれません。いかに自らが変化を起こしていくかということが問われているのです。
企業における変化は、組織の仕組み、ルール、ミッション、サービス、人事、役割、そして、目標や目的にまで及びます。いかに速く、それに適応するかが問われるのです。
しかし、経営者から社員まで、「変化すべき」であると自覚していながらも、一方で「except me」つまり「私以外」と思っています。実は、それが、変化に対する真の「抵抗勢力」です。もちろん、誰も、自分が抵抗勢力であるとは思っていないのですが。
そもそも、人間の脳は変化を「エラー」としてとらえる傾向があります。一度、ある習慣に慣れ親しむと、人間の脳には強固な回路が出来上がります。そして、それを守るシステムも強固で、その回路を、簡単に変えることはできません。したがって、変化が必要になる最初の段階では、変化が必要だとすら、認識していないのかもしれません。
企業で働く40~60%の社員は、変化を、自分の仕事やアイデンティティーに対する脅威以外の何ものでもないと見なす傾向があり、変化に応じる姿勢を見せないという事実があります。変化には、それなりの正当性を感じながらも、個人的にメリットがあるとは思っていないのです。
一方で、20~30%の人は変化を好み、積極的に物事に取り組む傾向があります。彼らは変化を、成功への一里塚だととらえているようです。
それでも、マジョリティーが抵抗勢力であることに変わりはありません。さらに、抵抗勢力は、たった一つの理由で抵抗しているわけではなく、各々事情があり、一般的な対応方法があるわけではありません。そこでは、やはり個別対応が必要になります。
ジェームズ・オトゥールは、人が変化に抵抗する理由を33にまとめています。
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● ジェームズ・オトゥール:変革を拒む33の憶測
1.ホメオスタシス(恒常性維持) ― 変革は自然な状態ではない。
2.前例主義 ― 現状は容認され、変革を申し出る側に立証責任がある。
3.惰性 ― 進路変更のためには相当の力が必要である。
4.満足 ― たいていの人間は現状を好む。
5.機が熟していない ― 変革のための前提条件がそろっていない。タイミングが悪い。
6.不安 ― 人は未知のものを恐れる。
7.自分にとっての利害 ― 他人にとってはよいことかもしれないが、自分たちにとっては都合が悪い。
8.自信の欠乏 ― 新たな挑戦に耐えられる自信がない。
9.フューチャー・ショック ― 変化に圧倒され、うずくまって抵抗する。
10.無益 ― 変革はすべて表面的であり、見かけ倒しであり、幻想だ。そんなものには関わらない。
11.知識不足 ― いかにして変化するのか、どのような状態に変わればよいのかがわからない。
12.人間の本性 ― 人間は元来、競争的で、好戦的で、貪欲で、利己的である。変革に必要な利他主義に欠けている。
13.冷笑的態度 ― 変革促進者の動機を疑う。
14.つむじ曲がり ― 変革はよさそうに思えるが、意図していなかった悪い結果が生じることを恐れる。
15.一人の天才vs大勢の凡人 ― われわれ凡人の頭には変革のための知恵など湧いてこない。
16.エゴ ― 自分たちの間違いを認めることに強い抵抗がある。
17.短期思考 ― すぐに満足できないことはイヤ。
18.近視眼的思考 ― 変革が結局はより広い視点から見ると自分のためになることが理解できない。
19.夢遊病 ― 大半の人間は、よく考えもせずに人生を送っている。
20.スノー・ブラインドネス ― 集団浅慮、あるいは「長いものにまかれろ」的思考。
21.共同幻想 ― 人間は経験から学ぶことなどなく、何事も先入観で見る、という考え方。
22.極端な判断 ― 自分たちは正しい。自分たちを変えようとする者は間違っている。
23.例外だという幻想 ― よそでは変革が成功するかもしれないが、自分たちの所ではそうはいかない、という考え方。
24.イデオロギー ― 世界観は人それぞれ。価値観というのは本質的にバラバラだ、という考え方。
25.制度の固さ ― ひとりひとりの人間は変えられても、諸集団を変えることはできない。
26."Natura non facit saltume"という格言 ― 自然に飛躍なし、という意味。
27.権力者に対する独善的忠誠心 ― 現在の方法を定めた指導者に背いてはならない。
28.「変革に支持基盤なし」 ― 多数派が変革に入れ込む以上の利害を少数派が現状維持に対して持っている。
29.決定論 意図的な変革をもたらすことなど誰にもできないと決めつける。
30.科学者きどり ― 歴史の教訓は科学的なものでありそこから新たに学ぶべきことは何もない。
31.習慣
32.慣習第一主義 ― 変革促進者の考えを社会に対する非難であると受け止める。
33.無思慮
(出典:ジョセフ・H・ボイエット、ジミー・T・ボイエット著『経営革命大全』P.54-55)
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変化をマネジメントするためには、組織全体の、また、個々の変化に対する反応を見つけ出し、変化によってもたらされる未来の可能性の広がり、ベネフィットを明確にし、各々の価値観やこれまでの実績を肯定し、次にどこへ向けて「重心」を移動させるかについて対話する必要があります。
いずれにしても、人はひとりでは変われません。
そこに「双方向」のコミュニケーションを創り出し、双方向の関わりという「思考方法」を通過させない限り、行動の変化は望めないでしょう。
また、長期的な変化のためには、社員一人ひとりが、自分の意志で自ら変わろうとする必要があります。
コーチは、双方向のコミュニケーションを交わし、一人ひとりが変化への対応を学ぶ過程で味わうかもしれない不快感や、メンツを失うのではないかというおびえにも十分配慮し、自信や能力が欠けているのではないかという不安にも応えていく必要があります。
また、変化の過程で戸惑ったときも決して叱ったり、恥ずかしい思いをさせたりしないようにします。
ひとりの人も、組織も、常に変化を迫られています。コーチは、単に変化の必要性を説くだけではなく、変化に適応し、変化を起こすための学習のプロセスを、コーチするのです。
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