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たった60分がもたらす未知の成果

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コーチングを実践的に身に付ける手段として、コーチ・トレーニング・プログラム(以下CTP、現在のコーチ・エィ アカデミア)は電話会議を使ってトレーニングをします。

最初に、アメリカからCTPを導入する際に、「いったい電話会議システムでどのように学習するのだろうか?」という疑問で頭がいっぱいになったものです。最初のトレーナーを日本に呼んだとき、そのことについて1時間ほど質問攻めしたことをよく覚えています。

そして、この疑問は、今もCTPに関心を持たれる多くの方が最初に持つものです。どんなに口で説明しても、文章で書いても、なかなか伝わりにくいため、今は実際に電話会議を使った体験トレーニングを実施しています。ここで私はいつも、成人の方たちの学習能力の高さに驚かされます。

体験トレーニングは約1時間。10名ほどの参加者とひとりの進行役で進めていきます(私もその進行役のひとりです)。

電話会議は一般的な固定電話から入るのですが、普通の電話との最も大きな違いは、1対1ではなく、1対多数が同時に話したり、聞いたりすることができるという点です。

ほとんどの方が初めて電話会議を使うので、最初はだいたいこんな感じでスタートします。


(進行役)「みなさんこんにちは」
(全員一斉に)「こんにちは!」
(進行役)「今日は1時間の体験トレーニングになります」
(ばらばらにいろいろな声で)「はい!」「わかりました」「......はい」


このように、最初のうちは、進行役が何かを問いかけると、時に一斉に、時にばらばらに、必ず返事をしてくださいます。そこで進行役の私はこう言います。

(進行役)「これからは、毎回返事をしてくださらなくても大丈夫ですよ。おひとりずつお話をうかがっていきますので、ご自分の番でないときは話を聞いていてください」

このように伝えると、参加者の方は「話すモード」から「聞くモード」へと切り替わります。

実はこの「切り替え」が、電話会議におけるトレーニングの最も重要なポイントです。切り替えができると、「自分がどう話すか」というスタンスから、「相手の話をじっくり聞く」というスタンスに入ることができます。このスタンスに入ると、自分が話すときまで、進行役と他の人の話をずっと聞き続けることができるのです。

コーチングのトレーニングの中で一番大事なのは、聞く能力を上げることですが「集中して聞く」ということを実践する場は、私たちの生活においてほとんどありません。

実際、この体験トレーニングの最後に、このトレーニングを受けてみてどんなことを体験したかとお聞きすると、たいていの方は「こんなに聞くということに体力を使うとは思わなかった」とおっしゃいます。「聞くことって刺激的なんですね」という方もいらっしゃいます。

「聞く」というと、私たちは一見受身なことと捉えがちですが、本当に重要なのは、単に話の内容を聞くのではなく、

・話し手はどういう背景があって、そのことを話しているのか?
・その人のコミュニケーションのとり方の特徴は何か?
・その人が外部情報を学習するときの傾向はどんなものか?
・話していることの言語外に込めているメッセージは何か?
・人との関わり方において重要視している価値観とは何か?

などを聞き分けることです。それだけ耳を傾けるポイントはたくさんあります。しかし、それは、ある程度の時間、集中して耳を傾けることができなければ聞こえないものです。

もうひとつ、参加者の方から感想をうかがって驚くことがあります。それは、聞いた内容をすぐに引用してコメントを話されたり、進行役の話し方をすぐに真似て話されたりすることです。わずか1時間のやりとりを聞いていただけで、参加者のみなさんは、進行役の話し方や関わり方、つまり、コミュニケーションのとり方を自分のものとして取り入れ始めるのです。恐らくご本人は無意識なのだと思いますが、集中して聞いていることで、このような変化が短時間のうちに生まれます。


「聞く」ことのトレーニングによる最大の成果。それは「単に聞けるようになること」ではなく、より多く聞けるようになることで「他の人から学ぶ能力が促進され、使える資源が増えること」なのです。

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