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万事塞翁が馬
コピーしました コピーに失敗しました本を何冊か書かせていただいたので、たまにお読みいただいた方から、「サインを......」と声をかけていただくことがあります。中には、「できれば座右の銘も」とおっしゃってくださる方も。
座右の銘というほど、いつも肌身離さず身につけている言葉は正直ないのですが、好きな言葉はいくつかあります。
その内のひとつが「万事塞翁が馬」。
ほとんどの方は、この「故事成語」のルーツについてご存知かと思いますが、念のため。
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昔、あるところに塞翁と呼ばれるお爺さんがいました。ある時、その塞翁が飼っていた駿馬が突然いなくなります。村の人々は、「あんな素晴らしい馬は二度と手にできまい。大変な損失だ」と口々に言いました。しかし、塞翁は「さあ、どうであろうか」と、特に動揺しているようにも見えませんでした。
そうしているうちに、ある日、いなくなった駿馬がもう1頭、見事な駿馬を連れて村に戻ってきたのです。村の人々は、塞翁に言いました。「なんと運が良いのだ。逃げたと思った駿馬がもう1頭駿馬伴って帰ってくるとは」と。しかし、塞翁は「さあ、どうであろうか」と、特段喜ぶ風でもありませんでした。
塞翁の息子はその新しい駿馬に乗って、平原を駆け巡りました。ところが、ふとした拍子から、落馬し、足の骨を折ってしまいました。村の人々たちは言いました。「良い馬だと思ったが、実は不幸をもたらす馬なのでは......」。塞翁は再びこう言います。「さあ、どうであろうか」。
そんなある日、その村を巻き込んだ、戦が勃発しました。多くの若者が戦地に赴き、命を落とす中、塞翁の息子は足の怪我のために徴兵されず、命を落とすことはありませんでした。
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どんな出来事も、「見る視点を変えれば、全く違う意味を持つようになる」このことを伝える、非常にパワフルな言い伝え、格言です。
コーチングをするということは、要するに相手を未来に向けて強く動かしたいわけです。そして、コーチングが「うまい人」は、相手が「停滞」してしまったときに、「万事塞翁が馬」的な視点を使って、相手をその停滞から解放し、未来に向けて再び動かすことにとても長けています。
ある大学スポーツの監督が、「みんなで優勝しよう!」と力強くメッセージを発信したところ、ひとりの学生の反発にあったそうです。
「監督、こんな弱小チームが優勝なんて無理ですよ。寝言言わないでください」
監督は切り返しました。
「そうだ、今の実力では無理だよな。でもだからこそ、お前のような、チームの実力を客観的に見ることのできる、そして監督に対してもはっきりと進言できる人材が必要なんだ。ぜひ力を貸してくれないか?」
この一瞬で、「批判的」とレッテルを貼られることの多かったその学生の態度を、「チームに必要な力」と捉え直してしまったのです。
また、弊社(株式会社コーチ・エィ)に、かつて百貨店に勤務していた男性スタッフがいます。
彼が新人のとき最初に配属されたのは、婦人服売り場。そして最初の仕事は、売り場から上げられてくる大量の「お直し」をバックヤードの然るべき場所に移動させることでした。
来る日も来る日も、お直しをバックヤードに運ぶ。仕事に意味を見出せずに、塞いだ気持ちでその作業に繰り返す彼に、マネージャーは言ったそうです。
「君はその作業を通して、この店で誰よりも今の売れ筋に詳しくなれる可能性があるんだぞ」
彼はその日を境に、仕事に対する取り組みが全く変わったといいます。
時に人の「認識」は、その人が未来に向けて創造的に動き出すことを阻んでしまいます。
「不可能だ」
「つまらない」
「つらい」
自分で認識を即座に変えることができれば良いですが、なかなか難しいときもあります。そんな様子が見て取れたらコーチの出番です。
相手の認識を、未来に向けて再び動きを作り出すものに変えてしまいましょう。そんなに難しいことではありません。相手の見方や行動が、どうしたら未来に向けて肯定的な意味を持つだろうかと考えてみればいいのです。
先日この話を私のクライアントにしたところ、早速現場で部下に試してくださいました。
「若手の部下が、『最近モチベーションが上がらない』とか言うんですよ。普段なら『まずは、目の前のできることからやれ』とか言うところです。でも、今回は『塞翁が馬』の話を聞いていたので、ちょっとアプローチを変えてみました。『仕事でのモチベーションが上がろうが下がろうが気にも留めない若手が多い中で、君はそれを上げようという気持ちが強いわけだな。下がっていたモチベーションをなんとか上げたという経験は、君が将来後輩を持ったときにきっと役立つぞ。それに、いつもモチベーションが高い人間は、低い人間の気持ちがわからないしな。さて、どんな風にしたら君のモチベーションを上げることができるか考えてみよう』
そう言ってみたんです。
すると、それを聞いただけで、彼のモチベーションはすでに少しだけ上がっているように見えました。まさに『万事塞翁が馬』ですね」
さて、あなたは周りの人の「馬に対する認識」をどのように変えることができるでしょうか? また、あなた自身の認識に関してはどうでしょうか?
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