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なぜヘッドハンターは、優秀なビジネスパーソンの心を動かせるのか
2010年03月03日
数年前、ある会合で業界でも有名なヘッドハンターの方と話をする機会がありました。その方の実績はまさにトップクラス。
通常、優秀な人材は、すでにその企業でもキーマンとして必要とされています。ですから、なかなか企業も手放さないし、本人も外に出ようと思わないので、ヘッドハントは困難と思われるのですが、彼の手にかかると実現してしまう。
ある意味、転職とは人の人生に関わることですから、彼は「人を動かすプロ中のプロ」といっても過言ではありません。私は、この方のヘッドハンターとしてのあり方に非常に興味を持ち、いったい、そういう人材をどうやって振り向かすことができるのか、聞いてみました。
すると彼は言いました。
「もし、中島さんにとってコーチ・エィに誘いたい人がでてきたら、どんなふうに誘いますか?」
「そうですね......。会食に誘って、うちの会社ではこんなことやっているよ。こんなこともやりたいと思っているよ! と、うちの会社はいかに良い会社か、面白い会社かということを、いろいろな事例を交えながら情熱を込めて話すでしょうね」
そう答える私に、彼はこう返したのです。
「中島さん、それは一番やっちゃいけないことですよ」
「えっ!!」
私は、いきなりの彼の言葉に、びっくりしました。そして、情熱を語らないでどうするの?......と思ったわけです。彼は言葉を続けます。
「中島さん、まず相手に語らせることなく、自分が夢語っちゃダメですよ。だって、中島さんの語るその夢って、中島さんの夢でしょ? そりゃまあ、その話がその人にヒットしちゃって、感動させちゃって、動いちゃうときもありますよ。でも、それで動いちゃう人は、中島さんとツボが似たような人ですよ。そういう人が欲しいんですか? もし、中島さんと似ていないんだけど、入って欲しいなって人だったら、それじゃダメ。まずは、その人の価値を知らないと」。
さすがにショックでした。良かれと思ってやってきたことが、全否定されたのですから。
「え? じゃあ、私はどうしたらいいんでしょう......?」
すると彼はこう言いました。
「まず、その人のパーソナルストーリーを聞いてください。幼いときから夢中になってやってきたこと、高校のときどんな部活をやってきたのか、どんなことに興味があったのか。自分で選択できる高校生以上になってからのことは特に重要です。大学はどこで、サークルは何を選び、バイトでは何をし、そして、なぜ今の会社に就職したのかを聞くのです。サークルひとつとっても、いくつか選択肢のある中からそれを選んだわけですから、その人の大事にしていることが見えてくる。
『会社を選ぶ』そのことには、その人の価値がたっぷり入っているわけです。このように、過去に目を向ければ、その人が大事にしてきた『価値の連鎖』が見えてくるのです。そして、その『価値の連鎖』の延長線上に、君のやりたい仕事がきっとコーチ・エィならできるんじゃないかな、ということを示せば、その人は勝手に動き出すと思いますよ」
それは、私にとって衝撃的な一日でした。確かに、私は今まで、まったくと言っていいほど、相手の過去を深く聞くことはありませんでした。
人にいきなり「うちの会社に来ない?」と要望しても、その人が動いてくれる可能性はきわめて低い。
でも、その人が何に価値を置いているのかをよく聞くこと。そして、その価値の連鎖の延長線上に、その要望を乗せたら、その価値にスポっとはまることがあるのだということを、私はそのヘッドハンターの方から教えていただきました。
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これは、上司、部下との関係でも同じことが言えそうです。部下の話を聞いていくと、だんだんとその部下が何に価値を置いているのかが見えてきます。学生時代はテニスサークルで主将をしており、バイトでは3つのテニス教室のコーチをしていて、家庭教師なども得意で、生徒の成績をメキメキ上がるのが好き......。
こういう部下の場合、「人に教える」「成長させる」ということが価値にあります。新人育成係やプロジェクトリーダーといった仕事は、おそらく部下の価値の延長線上に乗る仕事ではないでしょうか。
もし、乗ったならば、きっと部下も快く受け入れてくれるし、こちらが何も言わなくてもきっと夢中になって、その仕事に取り組んでくれることでしょう。
「相手に対する関心がないと、要望は入らない」そのヘッドハンターの方のお話を思い出しながら、今つくづく実感しています。
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