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中抜きされた社長の深刻なつぶやき
2010年04月07日
3年前の話です。
200名の従業員を抱える、とある企業の社長が困惑していました。オーナー社長が会長に退き、自分が社長に任命されたものの、1年経っても「全く任されている気がしない」というのです。理由を伺ってみると、社長は重い口を開き始めました
「うちの会長は社内の状況をすべて把握しているんです。会長室には、TVモニターが8台も並んでいて、そのうち6台には、職場における従業員の働きぶりが映っています。残りの2台は、リアルタイムであがってくる業績関連のグラフ。計8枚のモニターが、彼の椅子を取り囲んでいます。
また、会長は、お客さんとの会食はなるべく少なくし、週の多くを若手メンバーとの懇親会にあてている。秘書が隙間なくスケジュールを組んでいるんです。
そうすると、当然若手からは仕事の悩みや、プロジェクトをやっている中での不満などが出てきますよね。トラブルの話や、品質が低下している話、上司たちのマネジメントの話なども出てくる。そこで会長はいろいろと相談に乗るので、若手に大人気なんです。もともと、みんな会長にあこがれて入社してきているので、こうした時間は、若手社員にとっても大変モチベーションの高まる時間になっています。
でも、中抜きされた僕も含めたすべての管理職は、正直困っているんです。なにしろ、課長、部長のみならず、会社の誰よりも、会長が若手のことを知っているんですから。
そして会長は、若手から情報を得た翌日の早朝、関連する管理職を呼びつけて、解決案を指示します。『あーだ、こーだ』と。呼び出された方は戦々恐々ですよね。何を言われるか、おっかなびっくりですよ。
『君、こういうことは知っているかね?』
『いや、それに関しては......』
『君はそんなことも知らんのかね。現場では、こう言っとるぞ! 自分の部下のことを、君は何も知らんのだなぁ!!』
毎日がこんな状況なんですよ......」
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この企業において株が上がっているのは「会長本人」だけで、メンバーの直属の管理職や幹部はもちろん、新任社長の株までもが、落ちていく一方です。
中抜きされた管理職から社長までもが、「やりにくい」という。それはそうでしょう。役職を与えられながらも、会長からは「君を信じているよ」というメッセージが微塵も感じられないのですから。
創業以来、すべてを自分で切り開いてきた会長ですから、気になることが山ほどあるのはわかります。しかし、もし任せると決めたのならば、「信じる」と「疑う」の絶妙なバランスをとらなくてはなりません。
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先日、この企業の方から、あるお知らせをいただきました。それは、「社長辞任」の連絡でした。しかも前述の社長ではなく、その次の社長、つまり2人目の辞任です。
大きな岐路に立たされた会長。いよいよ決断のとき、と感じていたかもしれません。
「もう誰も信じられん!」となって、会長自ら社長に返り咲くか? それとも、自分自身のマネジメントに直面し、「人をもっと信じて、育てよう」となるか?
春は、人事発表の季節。決断を迫られたのは、この企業だけではなかったのではないでしょうか。
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