Coach's VIEW

Coach's VIEW は、最新のコーチング情報やリサーチ結果、海外文献の紹介を通じて、組織改革や人材開発、リーダー開発グローバルビジネスを加速させていくヒントを提供するコラムです。


中抜きされた社長の深刻なつぶやき

3年前の話です。
200名の従業員を抱える、とある企業の社長が困惑していました。
オーナー社長が会長に退き、自分が社長に任命されたものの、
1年経っても、「全く任されている気がしない」というのです。

理由を伺ってみると、社長は重い口を開き始めました

「うちの会長は社内の状況をすべて把握しているんです。
 会長室には、TVモニターが8台も並んでいて、そのうち6台には、
 職場における従業員の働きぶりが映っています。
 残りの2台は、リアルタイムであがってくる業績関連のグラフ。
 計8枚のモニターが、彼の椅子を取り囲んでいます。

 また、会長は、お客さんとの会食はなるべく少なくし、
 週の多くを、若手メンバーとの懇親会にあてている。
 秘書が隙間なくスケジュールを組んでいるんです。

 そうすると、当然若手からは仕事の悩みや、
 プロジェクトをやっている中での不満などが出てきますよね。

 トラブルの話や、品質が低下している話、
 上司たちのマネジメントの話なども出てくる。
 そこで、会長はいろいろと相談に乗るので、若手に大人気なんです。

 もともと、みんな会長にあこがれて入社してきているので、こうした時間は、
 若手社員にとっても大変モチベーションの高まる時間になっています。

 でも、中抜きされた僕も含めたすべての管理職は、正直困っているんです。
 なにしろ、課長、部長のみならず、会社の誰よりも、
 会長が若手のことを知っているんですから。

 そして会長は、若手から情報を得た翌日の早朝、
 関連する管理職を呼びつけて、解決案を指示します。

 『あーだ、こーだ』と。

 呼び出された方は戦々恐々ですよね。
 何を言われるか、おっかなびっくりですよ。

 『君、こういうことは知っているかね?』

 『いや、それに関しては......』

 『君はそんなことも知らんのかね。現場では、こう言っとるぞ!
  自分の部下のことを、君は、何も知らんのだなぁ!!』

 毎日がこんな状況なんですよ...」

******************************

この企業において株が上がっているのは「会長本人」だけで、
メンバーの直属の管理職や幹部はもちろん、新任社長の株までもが、
落ちていく一方です。

中抜きされた管理職から社長までもが、「やりにくい」という。

それはそうでしょう。
役職を与えられながらも、
会長からは「君を信じているよ」というメッセージが
微塵も感じられないのですから。

創業以来、すべてを自分で切り開いてきた会長ですから、
気になることが山ほどあるのはわかります。

しかし、もし任せると決めたのならば、
「信じる」と「疑う」の絶妙なバランスをとらなくてはなりません。

******************************

先日、この企業の方から、あるお知らせをいただきました。
それは、「社長辞任」の連絡でした。
しかも、前述の社長ではなく、その次の社長、つまり2人目の辞任です。

大きな岐路に立たされた会長。
いよいよ決断のとき、と感じていたかもしれません。

「もう誰も信じられん!」となって、会長自ら社長に返り咲くか?
それとも、自分自身のマネジメントに直面し、「人をもっと信じて、育てよう」となるか?


春は、人事発表の季節。
決断を迫られたのは、この企業だけではなかったのではないでしょうか。

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。

関連記事