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私の主体性を刺激した「インパクト・クエスチョン」
2010年06月16日
今私に付いてくれているのは、年下の女性のコーチ。
8年前、一番初めに決めたテーマは、確か「タイムマネジメント」だったと思います。
彼女は十分に私の話に耳を傾けてくれます。だから、私のほうも調子にのって話が止まりません。
「○○が忙しい。△△をやらなくちゃいけない。そうだ、雑誌の取材にも答えなくちゃいけない。メルマガも書かなくちゃ。そうだ、人材募集の広告も! ああああ、大変だよ......」
私は、溜まりに溜まったタスクを吐き出すように話す。それに対して、コーチは、ずーっと相づちを打ちながら聞いてくれるので、だんだんとこっちも十分話した気になってきて、気持ちが落ち着いてきます。
やっと一息入れようとした時に、彼女が私に向かってひと言。
「質問していいですか?」
そして、私が、「どうぞ、どうぞ」と促すと、彼女はこう言ったのです。
「中島さんの『しなくちゃいけないこと』については、よーく分かった気がします。ところで、中島さんの『やりたいこと』って......一体、何なんですか?」
私はそのとき、金づちで後ろから、頭を「ガツン!」と殴られた思いでした。振り返ってみれば、私が使っていた言葉の語尾は、全て、「~しなくちゃいけない」でした。すなわち、「have to do」。
その中に「want to do」は一つもありませんでした。
つまり、彼女は、「やらなくちゃいけないことは分かった。......で、あんたのやりたいことって何なのよ?」。そういう口調ではなかったものの、まさに、そこを突いてくる質問だったのです。
また、こんなこともありました。
コーチングセッション後、私は、たいていの事柄は行動に起こしていたと思いますが、たまに、なかなか行動に移せずに、次のセッションを迎えてしまうことがありました。
そんなとき、私は、コーチとのセッションに「てんこ盛り」の言い訳を用意して向かうわけです。忙しかった、難しかった、大変だった......。これができていないのは、実はこれこれこういうわけがあるのです! まさに言い訳のオンパレード。
それでも、私のコーチは、ずーっと心から聞いてくれます。
そして、だいたい5分くらい経った頃から、私のトーンが徐々に落ちてきます。人は面白いもので、心の底から、きちんと聞いてくれる人の前では、言い訳なんてたった10分も続かない。逆に、言い訳をしている自分が実に「惨め」になってくるのです。そして大きなため息とともに話を止めた、その瞬間を狙って、コーチは私に向かってすかさずこう言い放ちました。
「言い訳、終わりました?」
(あああああ、見られていたんだな......)
「やるといったことが、この2週間、できていなかったんですね。分かりました。砂山を登りたいのだけど、ズリズリと落ちて、なかなか登れない。そんな感じでしょうか? ......で、ここからは、二択なのですが、中島さん、どうします?」
「二択とは?」
「このまま落ち続けていきたいですか? それとも、ここは踏ん張って登っていきたいですか?」
そう聞かれた私は、言い訳を繰り返していた自分に対して少し恥ずかしさを覚えながら、答えました。
「......登る方でお願いします!」
コーチは、クライアントの望ましくない行動に楔(くさび)を打ち込み、これ以上落ちないようにコミットメントを確認することも行います。
「have to」と「want to」
「降りる」と「登る」
いずれの質問もシンプルながら、クライアントである私の「主体性」を刺激してくれます。
「どの部屋で、どんな話の展開のときに、コーチはどんな表情で、その質問を投げかけてくれていたのか」
そして、その瞬間、
「自分の体温の変化はどうだったか」
「頭がぐらぐらしながらも、その後、自分でどんなことを意識して行動したのか」
など、8年経った今でも、実に鮮明に覚えています。
「インパクト・クエスチョン」は、クライアントの体の中に残ります。そして、長い間、クライアントに影響をし続けます。
あなたの体の中にも、これまでに上司、先輩、同僚、後輩、家族からもらった「インパクト・クエスチョン」がきっとあるはず。そして、あなたもきっと、日々、部下やメンバーに「インパクト・クエスチョン」を投げかけています。
これまでに、あなたはどんな「インパクト・クエスチョン」と出会ってきましたか?
また、相手の主体性を刺激したのは、どんな「インパクト・クエスチョン」でしたか?
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