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忘れられない2人のコミュニケーター

今まで出会った方たちの中で、
コミュニケーションを交わすという意味で特に忘れられない方が2人います。
1人は書籍の編集ライターの方。もう一人は雑誌のライターの方です。
私は両者からインタビューを受けたのですが、印象的だったのは、
自分でも驚くほど情報を引き出してくれたこと。
そして、そのプロセスにおける深い満足感でした。
両者ともコーチではありませんが、
そのアプローチは双方向のコミュニケーションの可能性を
私に強く抱かせるものになりました。
■エピソードを引き出すことで具体化する■
最初の1人は、2003年に出版した
『やりたいをやるに変えるコーチング』(学研刊)の
担当だった編集ライターの西さんです。
当初は本を書くことを引き受けたものの、
一体自分の中に1冊の本になるほどのコンテンツはあるのだろうか、
と不安でたまりませんでした。
そんな私に対して、西さんが最初にやったことは、
2時間ほどとり、私がコーチの仕事をしていて得た印象深い体験について聞いてくれたこと。
私は、
「どんなコンテンツを紹介すればいいのだろうか、章立てはどうしようか」
ということしか考えていなかったので、
そのアプローチにはふいを突かれましたが、
自由に話をさせてくれる空間は心地よく、
それこそ「ぺらぺら」しゃべったことを思い出します。
驚いたのはその後でした。
次のミーティングで、西さんは私の話から
柱になりそうなものを章立てにしてくれたのです。
それを見た瞬間、
「この人は私の話をきちんと聞いてくれているんだ」という印象を深く持ち、強い信頼感を抱きました。
それからは毎週1時間ほど会って話をしました。西さんの特徴は、
私が「具体的なエピソードを話せる」ように、関心を持って質問してくれること。
そこから、「コーチングとは何か」というセオリーに落とすわけです。
頭で考えたことではなく、
実際にあったことを話すわけですから、説得力が違います。
西さんがやっていたのは、たった2つ。
「具体的な体験を引き出すこと」
そして、
「聞いたことを正確にまとめて返すこと」。
それによって、私の中では、自分が何をやっているかを明確に
言語化することができ、自分が持っているリソースを目の前に出すことができました。
■深い観察による個別対応■
もう1人は、日本にある外国人向け雑誌のライターの方です。この方はイギリス人の紳士。
「日本におけるコーチングの実情と今後の展開について」
という記事のインタビューをしたいとのことでした。
英語でのインタビューを受けるわけですから、
緊張してその時を迎えました。
しかし、この英国紳士は実にフランクで、日本語も堪能。
私は英語圏で生まれ育ち、その後日本で暮らしていることから、
実は日本語も英語も少し不安なところがあるのですが、
この方は私に自由に話すことを促してくれました。
彼は、最初は英語で質問をするのですが、
私が言葉につまると自然に日本語になって話しかけてくれました。
私の状態を見ながら言語を選び会話を促してくれるので、
私自身、日本語や英語を行ったり来たりしながら話せるようになり、
まったくストレスのない会話をすることができました。
彼がやっていたのは、
「私の話し方を注意深く聞く」
「私に合った言葉で話しかける」
というシンプルなものでした。
それによって、私は「英語と日本語で自由に思う存分話す」体験をしました。
そのときのストレスフリーな開放感は強烈で、
決して忘れることができません。
このプロセスで、実に多くのことを話す機会を得ることになり、
自分の中にあるリソースを把握することもできました。
■優秀なコミュニケーターの共通点■
2人がとったコミュニケーションは、
コーチ的アプローチにそのまま置き換えることができます。
・関心を持って聞く
・相手に合わせた個別対応を行う
・聞いたことをフィードバックする
これらには、お互いの間で深い信頼関係を築き、
その結果、話し手は自分が持っている知識やスキルに気づくことができる、
という共通点があります。
相手を成功させているコミュニケーターは、
相手を輝かせるためのコミュニケーションのノウハウを持っている。
この2人はそれを実践し、
私に今でも忘れられない体験を残してくれたのです。
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