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「たった一人」の可能性

「たった一人」の可能性 | Hello, Coaching!
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先月、生まれて初めて、ゴルフツアーを観に行きました。日本4大メジャー大会の1つである、日本ゴルフツアー選手権です。
 
お目当ては、石川遼選手。会場に着くなり彼の姿を探しました。

練習場を歩き回ること約5分。大勢の人だかりの向こうに、黙々とパター練習をしている石川選手を見つけました。ゆっくりと人ごみを掻き分けて進み、最後は腕を伸ばせばつかめるくらいの距離まで近づきました。

グリーン上のボールを真剣に追う彼の目に、一気に引き込まれました。石川選手が醸し出す気迫は、他の選手を凌駕していました。
 
圧倒的な集中力。簡単に声などかけられないような雰囲気。
  
そのとき、思いました。「ああ、この若者ひとりで男子ゴルフ界を変えたんだな」と。

もちろん、他の選手もみんな素晴らしいのは重々承知しています。何といってもあの狭き門を潜り抜けてきたプロゴルファーなのですから。しかし、女子ゴルフ界に押され気味で将来が危ぶまれた男子ゴルフ界を、再び人々の耳目を集める戦いの場に変えた要因のひとつは、間違いなく石川選手です。それは、成績やルックスの良さだけでなく、周りを覆い尽くすような彼の気迫が大きく影響したのではないかと私は思います。

たった一人の登場が全てを変えました。
 
一人の人間の力というものを、「所詮一人だけでは......」と見るか、「たった一人でも全てを変えうる可能性を秘めている」と見るか。

あなたはどちらですか?

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高校生の時、ある友人の叔父さんに出会いました。当時30代後半ぐらいだったでしょうか。だぼだぼのセーターにカーキー色のチノパン。一見、まったくさえない風貌です。反面、その目には人を射抜くような強さがあって、異様な輝きを放っていました。

その叔父さんはペルーに住んでいて、たまたま一時帰国したときに、私の友人の家に遊びに来ていたそうです。友人のお母さんが、その叔父さんを紹介してくれたセリフは、今でもはっきりと私の脳裏に焼きついています。

「この叔父さんは、ペルーに行く前は、大阪の中学で美術の先生をしていたのよ。生徒が荒れ狂ってどうしようもない不良学校を、彼はたった一人で建て直してしまった。クラスのガラスが全部割られていたようなところから始めて、全員が着席して真剣に授業を受けるところまで持っていった。ちょっとしたミラクルよね」

大阪の学校を3年で辞めて、そのときは、ペルーの貧しい子供たちに美術を教えているということでした。

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先々週、風土改革プロジェクトをリードする企業の担当者の方に続けてお会いしました。

一人は、2,000人規模の製造会社の風土改革のリーダーAさん。もう一人は3,000人規模の製造会社の風土改革のリーダーBさんです。

2,000人の会社のリーダーAさんは、自信に満ち溢れていました。

多くの変革プランを先導し、3年かけて、彼は会社を、文字通り、変えてしまいました。もちろん多くの人の協力があってはじめて、実現したことではありますが、彼が本気で会社を変えようと思っていなかったら、今でも、会社は3年前のままだったかもしれません。

一方、3,000人の会社のリーダーBさん。彼にAさんの会社の話をすると、眉間に少ししわを寄せ、抑揚の無い声でこう言いました。

「素晴らしいですね。そうやって会社が変わることもあるんですね......」

明らかにその顔には、「その人は運がよかっただけだよ。自分はだいたいこんなにいろんな仕事で忙しいのに、風土改革なんてやれるわけがない。土台一人で何ができる。現実はそんなに甘くない」と書いてありました。

「『たった一人』の可能性」に対する信頼がそこにはありませんでした。


以前、ある会社の社長が私に言いました。

「1,000人の社員がいて、大きく5つの部門に分かれています。以前は1,000人の社員全員に気を配らなければ、社員の意欲を高められないと思っていました。でも、いつの頃からか、およそ200人の部下を司る部門長の目の色が違えば、その部門はかなり良い線に行くということがわかるようになりました。それからは全社員というよりも、部門長の一挙一動をものすごく注意深く見るようにしています。彼らが脇目も振らずに会社の成長にコミットしているかどうか、をね」

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石川選手から、この部門長に至るまで、たった一人の本気は、組織を大きく変える可能性を秘めています。

もし、みなさんに部下が100人いて、その100人を「燃える」集団にしようと思っているとします。「全員を」と思うと、途方もない営みのように思えるかもしれませんが、その場合は、まずは一人を徹底的に本気にしてみようと考えるのはどうでしょうか?

100人の中のリーダーでも、中堅でも、あるいは入ったばかりの新人でもいいかもしれません。一人の本気は、理屈を越えて、松明に明かりが次々と灯されるように、隣の人へ隣の人へと移っていきます。

その一人と関わり、コーチングし、フィードバックし、思いを伝え、変革に向けて本気にする。毎日でも毎晩でも話し続ける。もしかすると、1ヶ月、2ヶ月、半年とかかるかもしれません。それでも、絶対に消えない種火を作るつもりで、一人の人間に関わり、赤々と燃えさせる。
 
まずは一人を徹底的に本気にする。それには自分自身も本気になる必要があるのは言うまでもありません。

組織変革はそこから始まるのではないかと、グリーンに立つ石川選手の真剣な眼差しを見ながら思ったのです。

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