Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
縦のリーダーシップと横のリーダーシップ
コピーしました コピーに失敗しました組織変革を引き起こすためには、「縦のリーダーシップ」と「横のリーダーシップ」が必要であると、最近強く感じています。
「縦のリーダーシップ」とは、ラインの部下に対して方向性を明示し、束ね動かすこと。
「横のリーダーシップ」とは、部門を越え、組織の壁を越え、「横の人」を巻き込み、方向性を作り、動かすこと。
あなたはどちらのリーダーシップの発揮が得意ですか?
実は、「横のリーダーシップ」を発揮することは、「縦のリーダーシップ」を発揮するよりはるかに難しいものです。
特に役職が上がれば上がるほど、横同士、お互いに譲れないものが出てきますから、その傾向は顕著になります(逆に、縦は発揮しやすくなります、ご存知のように)。
ある企業の次期幹部向けプログラムの中でこのことを伝えると、多くの参加者が強く頷いてくださり、次のようなご意見をあげてくださいました。
1.営業部隊のいる支社では、明確にラインがあり、目標もはっきりしているのでリーダーシップを発揮しやすい。
2.一方、スタッフ部門である本社では、それぞれの部署の意見が食い違い、なかなか方向性が定まらない。
3.施策が決まったとしても、全ての部署に顔を立てるような総花的なものになる。「ここを狙う!」といったフォーカスが定まらないので、力強いものにならない。
4.結果、エネルギーが分散し、スピードが遅くなる。
また、別の企業の執行役員層対象のエグゼクティブコーチングで、まさに「横のリーダーシップ」を高めることがテーマとなったときのことです。人事の担当役員はこうおっしゃいました。
「事業部が自分たちの利益ばかりを追求して、他の事業部とコラボレーションしようとしない」
「横につなげるプロジェクトを作っても、それをまとめるだけの力のある人がいない」
「リーダーが一様に近視眼的で、全体を俯瞰できない」
「縦のリーダーシップ」は、ポジションから生まれる権威をフルに活用することができます。一方、「横のリーダーシップ」では、権威はそれほど役に立ちません。
権威を使うことに慣れていると、人としての影響力だけで周りを動かす必要性に突然迫られたとき、面食らうことになります。
少し話がそれますが、大企業で管理職として活躍している方が、自分が住んでいる地域の会合では全くといっていいほどリーダーシップを発揮できず、八百屋のおじさんに押されまくった、などというのはよくある話です。
組織の中で横にまとめあげられないと、最終的には「社長はこう言っていました」などと大きな権威を持ち出して、相手を動かすような策に走りがちです。それでもその場は収まるかもしれませんが、確実に「遺恨」は残ります。
「なんだ、虎の威を借る狐か」と。
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『リーダーを育てる会社 つぶす会社』(ラム・チャラン、ステファン・ドロッター、ジェームス・ノエル著 英治出版刊)の中で、著者たちは事業を統括する役職に就いた人に対するアドバイスとして、次のようなことを言っています。
「他事業の成功に意義を見出すことが、この職位では絶対に欠かせない」
「これまではひとつの事業だけを考えていればよかったが、複数の事業や会社全体との関係について考えていかなければならない」
事業を統括する人間は、自分の事業のことだけでなく、常に全体の利益を考え、部門の壁を越えて働きかけていく必要があると言っているわけです。
先だって、大手メーカーの社長とお話をする機会がありました。
一役員という立場ながら、卓越したリーダーシップで、3社が合併した会社をまとめあげた方です。「横のリーダーシップ」の達人と言えるでしょう。
強烈な指導力を持った方であろうと予想していたのですが、全く逆で、とても温和、まさにジェントルマンといった感じの方でした。
この役員に、縦と横のリーダーシップの話を持ち出し、「『横のリーダーシップ』を発揮する上で大事なことは何でしょう?」と尋ねてみたところ、次のような回答をいただきました。
「それぞれの話をしっかりと聞くことでしょうね。とにかくたくさん質問する。ただし、どうあるべきなのかという仮説をこちらが構築できていないと、実は質問ができません。
仮説を持っているからこそ、相手との違いは何かということに興味が生まれ、質問ができます。だから、まずは自分で徹底的に考えるんです。会社にとって何が大事かということを。
そして相手のことを知る。お互いの違いがはっきり分かれば、結構合意に至るものですよ。合意に至らないのは多くの場合、違いをはっきりさせることを怖れているからではないでしょうか」
至言だと思いました。
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