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「コーチングスキルを使うこと」と「コーチをすること」の決定的な違い

「コーチングスキルを使うこと」と「コーチをすること」の決定的な違い
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某大手製造業の品質課の課長Aさんは、今年の6月から、部下5名に対してコーチングを始めました。

目標は、製造ラインの不良率を削減すること。7月、8月、9月、とラインの不良率は順調に下がり、この3ヶ月間の数字を年間に換算すると、約1500万円のコスト削減につながっているといいます。

では、その成功のポイントとは、一体どこにあったのでしょうか。

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「コミュニケーション能力と生産性はリンクしている。だから、コミュニケーション能力を上げれば、生産性も上がるはずだ」
「あのチームはまとまっているよね。それは、リーダーがしっかりしているからだと思うよ」
「あのチームはいまいち雰囲気がよくないね。多分、リーダーの統率力が足りないからだろうな」

こうしたことを、私たちは感覚的に、当たり前のこととして捉えています。では、実際にはどうなのでしょうか。

「聞く」「質問」「承認」「話しかけやすさ」「個別対応」などのコミュニケーション能力が職場やチームに与える影響力については、弊社の関連機関であるコーチング研究所(CRI)が詳しくリサーチしています。

その結果によると、「コミュニケーション能力」と「社員のモチベーションや職場の雰囲気」との間には、「相関係数 0.69」という強い相関関係が見られており、コミュニケーション能力の重要性が実証されています。

つまり、チームや部署を率いていくマネージャーやリーダーには今、コミュニケーション能力が求められているのです。いくら営業やITなどの専門的な能力がすぐれていても、「聞く」「承認」「個別対応」といったスキルが欠けていれば、チームの生産性は高まりません。

こうした考え方に基づいて、コーチングスキル研修は、広く一般的に行われてきました。

集合型研修で「質問」「承認」などのコーチングスキルを学び、それを日常のコミュニケーションに取り入れる。つまり、部下に対してコーチングスキルを使う。

それはそれで一定の効果を上げてきたと言えます。しかし、正直なところ、企業にとってみると、何がどのように変わったのか、評価はしにくいのではないのでしょうか。

成功の要因のひとつは部下に対して「コーチをしている」こと

冒頭の、某大手製造業品質課の課長の成功の要因のひとつは、5名の部下に対して「コーチをしている」ことにあります。部下に対して「コーチングスキルを使う」というような抽象的なものではなく、枠組みを決めて定期的なコーチングセッションを実施したのです。

その際のポイントをAさんに聞いてみたところ、主に次の2つのことを重点的に行ったそうです。

●枠組みをつくる

  • 社内クライアントとして、5人の部下を特定する
  • 不良率削減の数値目標を設定する
  • その目標に向けて課題設定を行い、部下の具体的な行動をコーチする
  • 周囲の関係者に取り組みを周知し、協力を仰ぐ

●ポイントを明確にし、それを意識しながらコーチングをする

  • メンバーと、組織のビジョンや価値を共有する
  • メンバーを成長させる意図を持つ
  • メンバーと共通の目標を持ち、各人の特性を活かす
  • メンバーに仕事を任せ、成長の機会を与える
  • 協力体制や変革が生まれる環境づくりを意識する

また、Aさんは次のようにも言っています。

「特に意識したことは、個々のメンバーが自ら、現状分析・原因究明に取り組むようにしたこと。私はコーチとして、結果はフォローするものの、詳細な指示はなるべく控えるようにしました」

その結果が、1500万円のコスト削減となって表れたというわけです。

「コーチングスキルを使うこと」と「コーチをすること」は、まったく次元が違います。コーチをするためには、継続的なトレーニングが必須です。コーチングスキルを学ぶことにプラスして、具体的なコーチングの方法を学び、身につけ、実践していく必要があるのです。

Aさんは今、この実績をもとに、コーチ・トレーニングの社内展開に向けて奔走しています。企業のコーチングに対する取り組みは、短期的な集合型研修から長期継続型トレーニングに、これからますます移行していくことになるでしょう。

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