Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
タブーを乗り越える
2010年11月10日
職場の中で、「気にはなるけど、あえて触れていないこと」はありませんか?
例えば、
●職場に挨拶がない
●最近、休みがちな社員がいる
●上司がいつもミーティングに遅れる
●全社で進めている変革活動に参加しない人がいる
●「やっても無駄なのに......」と思いつつも、意見は言わず、やらないという態度で抵抗する
など。
以前、私のクライアントに、こういう方がいらっしゃいました。
自分が本部長クラスに昇格したことで、いままで上司だった先輩が自分の部下になってしまった。その方には、新入社員のときからお世話になっているので、頭では「役割を全うすればいい」と分かってはいるものの、なんとなく気を遣っている。
先輩も、そこは大人で、声をかけてくれたり、ホウレンソウをしにきたりはしてくれる。でも、やはりお互いにある程度の距離を置いていて、心の底から「タッグ組んで一緒に戦いましょう!」という状態にはなっていない。
そんな状況を、このクライアントの方は、こう語ってくれました。
「もっと、お互いに腹を割って、話をして、タッグを組めれば、もちろんベストだと思うんです。でも、そこは、お互い距離を持っていますね。今は、無理やり何かをするというよりも、時間が解決してくれることを期待しています......」
確かにそうかもしれません。また、こうした問題は事実触れにくいことです。しかし、そうした微妙な関係を部下たちはどう見ているのでしょう。きっとみんな、薄々こう感じているのではないでしょうか。
「○○さん、先輩が部下になっちゃって、大変だよね」
「そりゃ、先輩の△△さんのほうが大変だろ。いままで、箸の上げ下げまで教えて、面倒見てきた部下だぜ。やりにくいだろ」
恐らくそう思っているはずなのですが、本人たちの前では、絶対に口にはしない、いや、できない。
組織には必ず触れにくいこと、タブー視されていることがあるものです。特に、上司が絡んでいること、上司が気にしていることに関しては、発言を促されたとしても、部下はそのことを語ること、触れることを避ける行動をとりがちです。あえて部下から触れてはきません。
だからこそ、こうしたタブー視されていることには、リーダー自らが触れていくことが重要です。しかも、できるだけ軽い状態のときに。
先ほどのクライアントに対して、私は聞きました。
「確かに、『時間が解決してくれる』という選択肢もありますが、あえてリーダーであるあなたからタブーに触れるとするならば、いったい何ができるでしょうか?」
「うーぬ......」。
クライアントは、しばらく考え込みました。そして、長い沈黙の後、急に何かを思いついたように、興奮した顔つきでこう言いました。
「私と先輩で、『二人合宿』したらどうでしょう?」
「『二人合宿』ですか? 具体的には何をやるんですか?」
「うちの会社は、役員合宿は頻度高くやっているんです。でも、それはあくまでも複数人。それの二人バージョンということで、今回、僕と△△さんが、二人だけで合宿したら、かなりインパクトがあると思うんです。こんなこと、いままで見たことも聞いたこともありません。
二人で温泉でも行って、露天風呂入って、その後、酒を酌み交わして、ぶっちゃけ話をして......。そして、どうやったら勝てる組織になるのかを朝まで語り合うんです。
そして、戻ってきたら、部下たちにこう言うんです。『△△さんと、二人合宿行ってきたよ』と。そうしたら、社員はめちゃくちゃ安心してくれるし、組織も明るくなるんじゃないかな」
このセッションの後、このクライアントは、すぐに二人合宿を△△さんに提案しました。そこで、△△さんも、同じことを思っていた、ということを知り、びっくりしたそうです。△△さんの方でも、自分から言い出すのは......と気を遣ってしまっていたとのことでした。
実際に、この二人合宿では、お互いに気になっていたことを言葉にし、確認しあい、共に戦おう、というコミットにまで昇華したそうです。
それからというもの、オフィスでの二人のやり取りは見違えるように変わったそうです。お互い気を遣いあった建前の会話ではなく、気心通じ合った仲、真のパートナーとしての本音の会話になりました。
そうした会話は、すぐに部下たちにも伝わります。部下たちからも、「お二人の関係、変わりましたね」などと、いままでは触れることのなかったこの話題に触れてくるようになったそうです。結果、他人の領域には踏み込まない、といった変な気遣いがあった職場において、最近は、同僚同士でもガツガツやりとりをするようになった、といいます。
誰もが感じている触れにくいこと。それは、リーダーから触れていかないと、誰も触れてきてはくれません。それが軽いときにはいいのですが、いつしかだんだんと質量感をおびて、重くなる。そして、いつしかタブーになる。
リーダーが、軽いうちに明るくそれを扱えば、部下と組織は明るくなる。一方、リーダーが触れることを避けたり、深刻に扱いすぎた結果として放置したりすると、部下と組織は重くなる。
リーダーには、そういったタブーに自らが率先して触れていく。そして、それを扱っていく勇気が必要です。
この記事を周りの方へシェアしませんか?
※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。