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ヘウレーカ!
コピーしました コピーに失敗しましたコーチングが機能すると、それを受けた人の自主性は確実に高まります。
例えば、それまで「飲食店を10件回ってこい」と指示を受けて、やらされ感をいだいて営業に出ていたセールスパーソンが、目標達成に必要なことを自ら選択して動くようになる。
どうしてこのようなことが起こるのか。改めて、私なりに整理してみました。
コーチングの基本は、問いかけなどを通じて、相手に考えてもらうことにあります。
この「考える」ということの本質を理解すると、なぜコーチングが機能するのかがよくわかります。
「考える」とは、一体何をしていることを指すのでしょうか?
また、「どうすれば目標を達成できるか」について考えているとき、その人の内側では一体何が起こっているのでしょうか?
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例えば、あるセールスパーソンが「僕は寝ても覚めても、どうすれば目標達成できるかばかり考えています」と言ったとしましょう。
「寝ても覚めても」というのは、果たして、彼女とデートしているときも、スポーツに興じているときも、トイレに入っているときも、ずっと目標達成の仕方をプランし続けていたということでしょうか? 恐らくそうではないですよね。実際、スポーツしている最中に目標達成のプランを作るというのは難しい。
350年間解けなかったといわれる数学の難題「フェルマー予想」。これをついに証明したアンドリュー・ワイルズは、8年間の歳月をその問題を解くことだけに使ったそうです。そして、彼はこう言った。「この8年間、『フェルマー予想』と家族のこと以外は何も考えなかった」と。
ワイルズは、本当に1秒も他のことは考えなかったのでしょうか?
哲学者の野矢茂樹氏は『はじめて考えるときのように』(PHP研究所刊)という本の中で、「考える」ということを次のように表現しています。
「答えの候補が現れたとき、いつでもぼくはそれをつかまえられるように、『チューニング』してるってわけだ。何かが思い浮かんだときに、『これがあの問題の答えかもしれない!』って声が響く。その声に耳を澄ましていること。集中して考えているときには、それが鋭敏に研ぎ澄まされている。他の声に耳をかさず、すべてをその問題に関係させて、『これだ!』という声を待つ。そういうとき、ぼくたちは『考えている』って言うんじゃないだろうか」
野矢氏は、アルキメデスが、王冠が純金でできているかを調べるための方法を入浴中に思いつき、「ヘウレーカ!」と叫んだ話を持ち出し、「考えているとき、人は『ヘウレーカ!』の声に敏感な、楽器みたいになっている」と言います。
寝ても覚めても、どうすれば目標達成できるかを考えているセールスパーソンというのは、要するに、無意識の内に、見るもの、聞くもののすべてを目標と関係づけ、「ヘウレーカ!」の声を常に待ち続けているということではないでしょうか。
だから、考えずに動いているセールスパーソンとは比べものにならないくらいたくさん、目標達成のために必要な情報が手に入るのです。
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では、人に考えさせるためには、何が必要なのでしょうか?
それは、「答え」ではなく、「問い」です。
東京大学で大人の学習を研究している中原淳先生(東京大学准教授)は、著書『リフレクティブ・マネージャー』(光文社刊)の中で、研修講師が「正しい答え」を与えてしまうことの弊害に言及し、次のように述べています。
「『正しい答え』をもらった受講者たちは、満足はするかもしれないけれど、そこで『思考停止』に陥り、自ら考えることをやめてしまう。つまり、『正しい答え』をもらっていても、それを実践に移し、行動を変容させることは少ない」
にもかかわらず、研修講師が「正しい答え」を与えてしまうのは、「研修終了後に受講者がモヤモヤした感情を残したままだと、アンケート満足度評価に響くからだ」と、研修講師自身の言葉を引用して伝えています。
上司は時に、部下にとって研修講師になってしまいます。部下を満足させるためかどうかはわかりませんが、その場での「すっきり感」をつくるために、答えを部下に与えてしまう。
すると、部下は思考停止に陥り、考えることをしなくなり、見るもの、聞くもの、すべてをターゲットに結びつけ、「ヘウレーカ!」を体験することもなくなってしまうわけです。
部下は常日頃、何を考えているのか......。何に耳を澄ましているのか......。それが上司の顔色や、同僚からの評価であったなら、あなたの組織は、目標を達成する上で欠かせない貴重な「アルキメデス」をひとり、失ったことになります。
あなた自身はいかがですか? 日々何に対する「ヘウレーカ!」を待ち続けていますか?
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