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次世代リーダーの育成は、特別なイベントなのか
2010年12月01日
「後継者育成を事業計画に盛り込んでいる企業はあるか?」と聞かれても、私にはあまり思い浮かびません。また、次世代リーダー育成を人材教育の中心に置いている人事部というのも少ないのではないでしょうか。
そもそも、組織においては、シニア・エグゼクティブのようなリーダーは、いくつかの役割をこなし、経験を積み、適度な競争の過程で必然的に生まれると思われている節があります。だからでしょうか。実際、経営層も、リーダー育成に特に熱心というわけではありません。
それでも団塊の世代は、人口が多く、競争も厳しく、リーダーが育ちやすい環境があったかもしれません。しかし、海外留学に背を向けた学生、海外赴任を断る若手社員が増えている環境を鑑みれば、これまでのように自然発生的に待っているだけで、リーダーが生まれてくる状況ではなくなっている、ということは容易に想像できます。
では、次世代リーダーは、誰が、どのように育て、開発するべきなのでしょうか。
当然それは、今の経営者層であり、今のリーダーの仕事、役割に他なりません。
次にご紹介するのは、マネジメント心理学を専門とするRHR International社が、米、英、仏、蘭、スイス、カナダ、ロシア、東欧諸国などの16の企業に対して実施したリサーチ結果です。
ここでは、次世代リーダー(ハイ・ポテンシャル人材)の見分け方、育て方、開発手法などに触れていきます。
リサーチ結果から得られた結論は、次の通りです。
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「組織が『社内でシニア・エグゼクティブのようなリーダーを開発する能力』と、『未来の成長ニーズを実現していく能力』には、著しく明白な相関関係がある」
では、社内でリーダーを開発する上で、重要なことは何だろうか。次世代を担うハイ・ポテンシャル人材を開発するのに最もインパクトのある組織的行動として、そのリサーチでは、以下の2つが挙げられた:
◆彼らの能力に負荷を与える新しい重要な役割を与えること
◆彼らに対して、トップ(最高経営者)から積極的でパーソナルな関わりを持ち続けること
とはいえ、ハイ・ポテンシャル人材かどうかは、組織としてきちんと見分けなければならない。
その際、重要な「ハイ・ポテンシャル人材の発掘の仕方と育て方に最も効果がある手法」としては、主に以下の4つが挙げられた。
◆会社が直面する経営戦略課題に基づいたリーダーシップ力を定義すること
◆ハイ・ポテンシャルと思われる社員に対して、1on1コーチングあるいはメンタリングを実施すること
◆ハイ・ポテンシャルと思われる社員のリーダーシップ開発のために、リソースを配分すること
◆「人材開発」を、組織の戦略的優先順位のトップに置くこと
ここまで見ると、各企業は、ハイ・ポテンシャル人材の開発の仕方も、見分け方も、熟知しているように思える。ところが、驚くべきことに、リサーチ対象となった企業の3/4は、次のように回答している。
「現在の自社のタレント・プール(リーダー候補)が、組織における『未来のリーダーシップ』のニーズに見合っているかどうかに自信がない」と。
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このリサーチ結果を踏まえ、フィリップ・エレクトロニクス社のHR部門の副社長、Bob Thomas氏はこう言っています。
「企業は、未来のリーダーを発掘し、手塩にかけることに対して、今よりもはるかに計画的で、オープンでいる必要がある」と。
私もまったく同感です。
次世代リーダーの育成やリーダーシップ開発には長い時間がかかります。にもかかわらず、こうした取り組みは、往々にして、特別、かつ一時期なイベントとしてとらえられがちです。
しかし、次世代リーダーの開発は、会社において重要な推進力となるため、事業計画の中で常に高いプライオリティを維持しておかなければなりません。計画的に、継続的に、プランを立て実行する必要があるのだと思います。
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【参考文献】
Leadership succession planning "affects commercial success":
Chief executives crucial to developing high-potential employees
Copyright Emerald Group Publishing Limited
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