Coach's VIEW

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あなたは誰を、何のためにコーチしていますか?

コーチングについてのセミナーや講演会の質疑応答で、
次のような質問を聞くことがあります。


「私は部下育成にコーチングを取り入れようとしているのですが、
 あまりうまくいっていません。

 本で『承認が必要だ』と読んでは、部下を承認してみたり、
 セミナーで『質問力が大事だ』と聞けば、
 すぐいろいろな質問をしてみたりするのですが、
 あまり成果が出ないんです。
 
 コーチングはうまく機能しないんじゃないかと
 思い始めているのですが、何かいい方法があれば教えてください」


私は、この状態では、コーチングは機能しないと断言することができます。
 
 
理由は二つ。一つは、この質問者の方が、
「コーチすること」と「コーチするときに使うスキル」を
混同して理解しているから。

 
「承認が大事」ということを学んだ質問者は、部下に
「よくやってるね」「すごいなあ」「さすがだね」などと認めたり、
ほめたりしている。

でもそれは、単に「ほめているだけ」という状態です。


「コーチする」という動詞は時に独り歩きしてしまいがちですが、
押さえておくべき大事な前提事項があります。
それは、「何のために」「誰を」「どのくらいの期間」コーチするかということ。

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弊社のトレーニングプログラムでは、
多くの管理職、マネジャー職の方が、
「コーチする」ためのトレーニングを受けていますが、
最初に必ず明確にしているのが、
 
「何のためにコーチングを取り入れるのか」ということです。つまり目的。


次に明確にするのは「誰を」コーチするか。
トレーニングでは5人以上のステークホルダーを決めてもらっています。

ステークホルダーの選定は、コーチングを取り入れる目的によってさまざま。

以下はその一例です。

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目的:社内の組織風土改革
相手:各部署から5人

目的:製品の品質向上
相手:管理部門と製造部門の両者から5人

目的:次世代リーダーの育成
相手:幹部候補生5人

目的:営業力の向上
相手:トップセールスマンとこれから伸びる可能性のあるセールスマンから5人

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もしコーチをする目的や対象がはっきりしていなければ、
目の前の人を行き当たりばったりで承認してみたり、
質問すること自体が目的となって意味ないことを根掘り葉掘り聞いてしまったり、
というようなことが起こりかねません。


そして、3つ目が「いつをゴールとするか」。

つまり相手をコーチする期間です。
弊社のトレーニングの場合は、原則、半年間続きますので、
ゴール設定においては、3ヶ月から半年を目安にしています。

これら3つを踏まえて「コーチする」ことで、
次のような変化が生まれます。

例えば、
次世代リーダーの育成が目的であれば(何のために)、
5人の幹部候補生との間で(誰を)、
いつまでに何を達成すればゴールとするのか(どのくらいの期間)
という指標を決めます。

そして、それを達成するために、
必要なスキルや知識を本人に備えさせるためにコーチしていきます。
 
その前提の上で、相手が行動を起こした際に承認したり、
考えや発想を促すための質問をしたりすることではじめて、
コーチングはその機能を果たすのです。
 
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冒頭の質問者のコーチングが機能しないもう一つの理由は、
コーチングを自我流に行っていること、
つまり、専門家によるスーパービジョン(監督)がないことです。

コーチングを機能させるには、
コーチングのやり方が機能しているのかいないのかを
確認することが大切です。

主な方法としては、
「コーチをしているステークホルダーから直接フィードバックを受けること」、
そして、「専門家(プロフェッショナルコーチなど)からの
スーパービジョンを受けること」です。
 
それがなければ、独りよがりの
コーチングを提供することになってしまいます。


このように、
「何のために」「誰を」「どのくらいの期間」コーチするかを前提とした上で、
フィードバックを受け、スーパービジョンを得ながら実践していく。
 
それこそが、コーチングスキルを身につける最も有効な方法です。
 
冒頭の質問のように
本を読んでちょっと部下に試してみる、
セミナーで得た知識をショットでやってみる、
という方法では難しい、と言えます。

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先日、「インスティテュート・オブ・コーチング」(※1)において
シニアアドバイザーを務めるレスリー・シノブ氏と話す機会がありました。

彼女は医師でありながら
リサーチャーであり、同時にコーチでもあります。彼女は次のように話していました。

「医師は、大学で医学について学ぶ。
 しかし、現場に出て、次第にキャリアを積んでいくにつれて、
 医療チームをリードしなければならない。
  
 しかし、ほとんどすべての医師は、
 それまでリーダーシップやチームマネジメントを学んできていない。
  
 だからこそ、今、多くの医師はコーチングを学び、取り入れているのです」

「医師をリーダーに転向させる」(※2)というタイトルの学術記事が
『ハーバード・ビジネス・レビュー』に発表されていることからも、
医師がコーチをする重要性がうかがい知れます。


医療事故を減らすことを目的として、
ドクターが他のドクターや看護師、薬剤師をステークホルダーとして選び、
その人たちをコーチすることで、より良いチームワークを構築する。

医療現場においても、
目的に向けてステークホルダーを選び、コーチすることで
成果を上げているケースは、確実に増えてきているようです。

 
 
あなたはどんな目的を達成するために、どんなステークホルダーを選びますか?


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※1「インスティテュート・オブ・コーチング」...
  アメリカのハーバード大学医学関連病院、マクレーン病院が主導するNPO団体

※2 "Turning doctors into leaders"
  Thomas H Lee - Harvard Business Review, 2010
  Professor of medicine at Harvard Medical School.

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