Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
全員が考える組織を作る ~この危機を乗り越えるために~
コピーしました コピーに失敗しました今、日本がまさに直面している状況を思いながら、このコラムを書いています。困難を乗り越え、前に進むことのできる組織とはどういう組織なのか......。
先日、東洋経済主催ヒューマンイノベーション・フォーラムで講演をさせていただきました。テーマは「組織変革に向けたリーダー育成」。
40分の講演の中で、一番お伝えしたかったのは、「リーダーは、どうすれば自身がもっといいリーダーになれるか、四六時中『考え続ける』必要がある」ということでした。
「もう私は立派なリーダーだから、リーダーシップについて学ぶ必要はない」
役員であっても、社長であっても、このようなセリフを吐くことがあってはなりません。
ところが実際には、役職が上がってくると、部下のリーダーシップのなさは嘆いても、それが自分のリーダーシップのなさ故である、と思うことが少なくなるようです。
リーダーの器以上に組織は大きくなりようがありませんから、たとえ社長であっても、常に考え続けることで、さらなるリーダーシップの向上に努めなければなりません。
そんなことをお伝えさせていただきました。
そして、私の前に講演をされたローソンの新浪剛史社長も、1時間の講演の中で、考えることの大切さを切々と説かれていました。
社員にイノベーションを起こさせるには、とにかく日頃から考えさせる必要がある。考えさせて、アウトプットさせて、行動させる。失敗しても全く問題ない。ひとりの社員の失敗で会社が潰れることなどないのだからと。
ただ、「考える社員を作るのには3年かかった」ともおっしゃっていました。
オフサイトでメンバーを集め、議論をさせ、とことん考えさせる。初めのうちは稚拙で表面的なやりとりに終始していたそうです。それでも、切り口を与え、データを与え、議論させる。そうするとだんだん自分で考えるようになる。
ローソンさんは、地域ごとのニーズに合わせた様々な型の店舗を作っています。足湯を備えた店舗、病院内の店舗、ナチュラルローソン......。そうしたイノベーションは全て、社員が考えることによって生まれたのです、と新浪社長はおっしゃっていました。
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講演の日の夜は、私が毎回参加している会合で、日本サッカー協会副会長を務められている田嶋幸三さんのお話を伺いました。全く聴衆を飽きさせない、素晴らしい講演でした。
その中で田嶋さんが再三強調されていたのが、「サッカーは考えるスポーツである」ということです。
一人ひとりが場面に応じて何をすることがベストなのかを考えていないと、試合には勝てない。ただ、それは日本代表やJリーグなど、上部組織にだけ浸透させようとしてもうまくいくものではなく、小学生の頃から考えさせる必要があるのだ、と。
例えば、小学生の時から、クラブの監督に、「右に出せ!」「左にパスだ!」「今だ、狙え!」などと事細かに言われていると、その選手には「考えない」習慣ができてしまう。
だから、田嶋さんは、全国の少年サッカーの監督に、いかに考えさせることが大事かを説いて回ったとおっしゃっていました。
以前は、アジアカップでも全く勝てなかったこともあった日本が、最近では、過去6回の大会で4回も優勝しています。ワールドカップの常連にもなっています。
その背景には、日本でプレーする「トップから小学生まで」サッカー選手全員に考えさせよう、というサッカー協会主導の取り組みがあったのです。
また、考えさせることの重要性は、教育についても然りです。
次の日の朝、日経新聞を読んでいたら、社説に学習指導要綱が新しくなるという話が出ていました。現行のものよりも詳細になるそうです。
教員に対して絶対的な影響力を持っている指導要綱が細かくなれば、教員が生徒に教えなければいけないことが増える。
自ずと授業は一方通行になりやすくなり、考えさせる機会が減ってしまう。もう少し、要綱を大づかみなものにしては、という趣旨の社説でした。
教育の現場のことを詳しく理解しているわけではありませんが、ひょっとしたら「考える日本人」を作るために、詳細な学習指導要綱は障害になってくるかもしれません。
ひとりの息子の父親として、そんなことを感じました。
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今、おそらく日本のあらゆる企業で、スポーツのチームで、そして学校で、その組織の構成員に考えさせることが求められているのだと思います。
そして、ひとつ確かなことは、「考えさせるためには、答えを与えてはいけない」ということです。
答えを安易に与えてしまえば、相手の中に考える習慣は育ちません。答えを与えることの誘惑に耐えない限り、真に考える人材の育成はおぼつかないわけです。
日本は未曽有の危機に直面しています。
この危機を乗り越えるために、自分に何ができるかを考え続ける人が多ければ多いほど、復興は早く、未来に向けての歩みは強まることと思います。
何があっても決して後退せず、前へ前へと歩みを進めることのできる人材を作る。
こんな状況下だからこそ、日頃の上司の、先生の、そして親の働きかけが、この国をさらに強くしていくのだと信じています。
企業の社長として、ひとりの日本人として、父親として、今、いったい何ができるのか......。このコラムを書いている今も、私は常に考え続けています。
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