Coach's VIEW

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コミュニケーションはキャッチボール

20年近く前にニューヨークで講演をした際、ニューヨーク在住の友達を招き、
弊社の駐在員の家で小さなパーティーを開きました。

その中で、私の目に留まったのが、一人のシャイな男の子。
その子は父親にしがみついて離れようとしません。
お菓子やアイスクリームを見せても、顔を背けてしまいます。

そこで、その場にあったバスケットボールを、
その子に向けて転がしてみました。

すると、彼は、ずっとしがみついていた父親から離れてボールを拾い、
私に転がしてきたのです。

私がまた転がすと、その子もまた返してくる。

やがて、バスケットボールを使ったキャッチボールが始まりました。

キャッチボールをしながら話しかけると、返事も返って来るようになり、
その子は自然とパーティーにも打ち解けていったのです。

その経験から、講演などでは、ボールを使って、
コミュニケーションを可視化するデモを行うようになりました。

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最近、以下のような記事を読みました。

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ロサンゼルスのUCLAで脳心理学について研究しているナオミ・エイセンバーガー氏は、
「人々が他人に拒絶されたときや関係から除外されたとき、脳内で何が起こるのか」
を研究した。

彼女は実験の中で、ボランティアの被験者に
「サイバーボール」というインターネットゲームをやらせて、
その間、fMRI(functional magnetic resonance imaging)という機械で
ボランティアの脳波を測定した。

「サイバーボール」は、学校の校庭のような場所でキャッチボールをするゲームで、
被験者は自分のアヴァターと自分以外の2人、計3人のアヴァターを見ながらゲームを行う。

このゲームにおいて実際にプレーしている「人間」は被験者のみである。
しかし、実験の目的から、そのことはゲームが終わるまで被験者に伝えられていない。

「キャッチボールが始まって一定の時間が経ったところで、
 被験者はボールを受け取るのをやめるように設定されています。

 そして、被験者がボールを受け取るのをやめた後、
 残りの2人は被験者にボールを投げることなく、
 2人でキャッチボールを続ける、
 というのがこの実験のルールです」

とエイセンバーガー氏は述べる。


そしてゲーム終了後、被験者たちに、
「どのような気持ちになったか?」と質問した。

すると、彼らは口々にこう答えたそうである。

「『自分以外のプレイヤーは、人間ではない』
 と説明されてもなお、怒りや悲しみを感じた」

「自分に何か悪い点があって、
 それによって残りの2人に嫌われてしまい、
 除外されてしまったかのように感じた」


この反応は、「脳」でも同じように生まれる。

人間がインターパーソナルな関係から除外されていると感じたとき、
脳における前帯状回皮質の側面(この部位は、苦痛や痛みを出力する神経領域である)
に反応が起こる。

実際、被験者の中で、この実験の最中に仲間外れの気持ちを感じた人は、
この部位に大きな反応が見られた。

つまり、「人が仲間外れにされたときの気持ち」と、
「外的要因による痛みを受けたときに感じる気持ち」は同じであるといえる。


また、エイセンバーガー氏と同じくUCLAで研究をしているマシュー・リーバーマン氏は
以下のような仮説を立てた。

「人間は、『社会的な関係性』を、『身体的な不安』として感じながら、
 進化してきたのではないだろうか」

哺乳類にとっては、「社会的に自分を守ってくれる存在とつながっている」ということが
生きる上での絶対条件である。

「サイバーゲーム」の実験によって明らかになったのは、
「人間の脳は、社会という概念の中に組み込まれた臓器である」ということだ。

それはつまり、「生理学的で神経学的な反応は、社会的な相互作用によって形作られている」
ということである。

さらには、脳が休息している間さえも、
バックグラウンドで脳が考えていることのほとんどは、
自分とその他の人間との関係についてである、ということもいえる。


ここまでの結果は、経営者に大きな課題を与えている。

仕事は、時に単純な経済取引とみなされることがあるが、
人間の脳は、第一に、仕事場を社会のシステムとして認識する。

ゲーム内でアヴァターに見放されてしまった被験者たちの感情は、
仕事で裏切られたり、無視されたりしたとき
(たとえば仕事上のミスで叱責されたときや、
 給料に見合わない仕事を要求されたとき、減給を伝えられたとき)
のそれと似ている。

そのような経験をしたときに、
脳の神経信号は頭を強打されたときと同じくらいの強さの痛みを発する。

つまり、無視されたり、裏切られたりすることは、単なる精神的なダメージではなく、
物理的に頭を殴られたときと同じ痛みとして脳は知覚しているということになる。

もちろん、組織で働くほとんどの人は、
そういった反応を合理化したり、やわらげたりすることを学んでいる。
その一方で、彼らは仕事に対するコミットメントを
低減させるようにもなってしまう。

やがて、彼らはやっつけで仕事を処理するようになり、
会社のために努力することをしなくなる。
なぜなら、社会的なコンテクスト(文脈や背景)が
コミットすることや努力することの邪魔をするからだ。

そして、リーダーが、このダイナミズムを理解していなければ、
彼らの才能を発揮させ、チームワークや協力関係を築くことなどできないのだ。

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ともすると、コミュニケーションは、その内容に気を取られがちですが、
その背景にあるダイナミズムや、
「人間は社会的な動物であり、関係性のうちに存在している」
という前提を忘れてしまうと、
人は不安や恐れ、怒りを抱くようになってしまいます。

人間の心と体はつながっていますから、
排他的な態度や仲間外れは、心と体の両方にダメージを与えるのです。

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キャッチボールを通じて伝わるメッセージは、時に言葉を超えます。

それは、普段忘れられがちな「つながっている」「関わっている」という実感です。
人が仕事に求めるものはいくつもあるでしょうが、
最初にこの実感がなければ、次のレベルに上がることはできないでしょう。


今、組織のリーダーは、かつて経験したことがないほど、
難しい局面を迎えているのではないでしょうか。

しかしこうした状況だからこそ、リーダーにとってはまず、
部下と何を話すか以前に、一対一で向き合う時間を取ることが大切です。
次に、口を挟まず、部下の話を聞くこと。内容はその次です。

「インターパーソナルな関わり」。
それは、リーダーに最初から最後まで求められる能力だと言えます。


〈参考文献〉
 strategy+business
 Managing with the Brain in Mind
 David Rock
 Copyright 2009 Booz & Company Inc.

 Translated by Kotaro Itoh

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