Coach's VIEW

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時間的プレッシャーの中で、創造性を発揮する

とある製造業の取締役で事業部長でもあるYさん。
そのYさんが、震災後の体験を話してくれました。


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東北の自社工場で、ある製品が作れなくなった。
その製品は、まだ他の工場では作れないものだった。


Yさんは、工場の被災を聞いた瞬間、
ある大口のお客様が頭に浮かんだそうです。

その製品がなければ、お客様の会社は新商品の発売が出来なくなります。
それがその会社にどのくらいの打撃を与えるかもよく知っていました。
しかし、工場の復旧の目処が、どうしても立ちません。

そのお客様に迷惑をかけたくない。
みんなが長い時間をかけた受注までの道のりも無駄にしたくない。


Yさんはさまざまな方法を考えてみました。

しかし、なかなか良い解決策が思い浮かびません。
納期は刻々と迫ります。

そして、もう諦めそうになったとき、
ふと「みんなに聞いてみよう」と思い立ったそうです。

震災から5日が経っていました。


Yさんは、社内放送を使って、
緊急に事業部の約800人全員を会社のホールに集めました。

そして、今の状況、お客様との関係、Yさんの気持ちを伝えたのです。

「なんとかしたい」と。

初めての体験で、足はがくがくと震えていたそうです。


すると、ある年配のエンジニアが手を上げました。

「その工場の設備と同類のものが九州の工場にあるはずです。
 僕はその工場の出身なんです」

後ろのほうからも手が上がりました。

「昔、東北でその設備を担当していました。
 僕が九州に行って使えるかどうか見てきます」


「足りない材料はライバル企業から譲りうけたらどうか」
 
「人手は中部地方の工場からも借りよう」

部下たちからは、次々とアイデアが寄せられました。

この日をきっかけに、事態は好転しました。

各工場長が互いに連絡を取り合い、アイデア実現に向けて動いてくれました。
Yさんは、みんなの労をねぎらうために各工場を飛び回ったそうです。

数日後、九州の工場で、
それまで使われていなかった設備を使った生産が始まりました。


Yさんはこう振り返ります。

「すべては部下たちのアイデアから始まった。

 自分の担当領域を越えて、みんなが自発的に動いてくれた。

 当初の予定よりは少し遅れてしまったが、
 その製品を、お客様に納め続けることが出来る目処が立った。

 一人ひとりが自分の創造力を目一杯働かせて、奇跡を起こしてくれた。
 本当に嬉しかった。まさに火事場の馬鹿力だ」

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こんな研究があります。

ハーバード・ビジネススクールのアマビール教授らによる、
「時間的なプレッシャーが人の創造性にどのような影響を与えるか」
という研究です。(※)

複数の企業で働く社員を対象に、業務内容や時間的プレッシャーの強さ、
創造的思考が出来たかどうかなどを毎日記録させ、
合計9,000を越える記録をもとに詳細な分析を行ったものです。

アマビール教授らはこの研究から次のような結果を得ました。

「時間的プレッシャーが高い日は、
 それ以外の日と比べて創造的思考が平均45%低下していた。
 つまり、元来、時間的プレッシャーの下では私たちの創造性は発揮されにくい。

 しかし、ある条件の下では、時間的プレッシャーが高くても創造性が発揮された。
 その条件とは、人が強い『使命感』を持って仕事に取り組んでいるときだ」

仕事の緊急性や重要性を十分に理解し、
「何が何でもこれを達成するんだ」と、
その仕事に「使命感」を持って取り組んでいるとき、
人は時間的プレッシャーが高くても創造的な思考が発揮される可能性が高い、
というのです。

Yさんのいう「火事場の馬鹿力」は、
メンバー一人ひとりの「使命感」によって
創造性が発揮された結果、生まれたものだと言えそうです。


さらに、アマビール教授らは、部下に使命感を持って取り組んでもらうには、
仕事の重要性や緊急性などについて部下と十分なコミュニケーションを取り、
共感を得ることが必要だと述べています。

追い込まれたYさんが取った行動も、
部下と十分なコミュニケーションを取ることでした。


Yさんは、こんなことを話してくれました。

「今となっては、同じ組織の中で、
 普段なぜこういうことが出来なかったのかと不思議に思う。
 全員、自分の組織のメンバーなのに」

Yさんは、これまで事業部の全員を集めて話したことはありませんでした。

お客様の状況や自分の気持ちを、部下に詳しく伝えたこともありませんでした。

各工場の垣根を越えた協力体制もなかったそうです。

「自分の中に、指示やメッセージは、
 事業部長から部長、部長から課長へと伝えていくもので、
 どんな時もこれを壊してはいけないという『枠』があったと思う。

 大勢の人前で話すことに対する自分の苦手意識が
 その背景にあったのかもしれない」

Yさんは、震災という特殊な環境により、
これまでの自分の「枠」を飛び越えました。

震災から得た気づきは、
これからのYさんのリーダーシップに少なからず影響を与えそうです。

(※)参考文献
Creativity Under the Gun, HBR, Aug.2002
時間的制約は創造性を高められるか
『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2003年1月号

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