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日中間に共通する、部下に変化をもたらす上司の行動原則とは

2011年05月18日

「うちの会社の中国人社員は、
言われたことしかやらない社員が多いんですよね」
そう話すのは、本社から販路の拡大と売上アップをアサインされ、
それに向け、採用をスピードアップして組織拡大を図っているA社の副総経理Bさん。
A社での目下の課題は、
「中国人社員にいかに業績を上げさせるか」です。
課題は異なれど、私が上海で訪問する日本企業の現地法人の方から
よくいただくお話です。
Bさんは、続けます。
「『責任を取りたくない』などの理由で、
社員は言われたことしかやらない傾向があります。
ですから、中国人のマネージャーやリーダーに指示命令型が多いのは
ある意味仕方がない面もあるんですよ。
ただ、これまでは指示命令型でもなんとかなりましたが、
これからゴールを達成していくために
社員をさらに増やしていかなければいけないことを考えると、
このままでは、厳しいですよね。
中国人マネージャーやリーダーには、
もっと部下を育成するという意識を持ってもらわないと......」
中国に進出している日本企業の多くは、
中国人の社員をいかに動かすかに腐心しているようです。
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私がお会いしている日本企業の中国現地法人の駐在員の方々は、
中国人社員に抱く懸念点を、概ね次のように挙げています。
・決められた範囲の仕事しかしない
・責任を回避しようとする
・部下を育成するという意識が希薄である
・ルールを守らない
・場当たり的な対応をし、原因追究をしない
・会社に対するロイヤリティがない
(すべての中国人社員がそうである、というわけではありませんし、
一方で、中国人社員は数多くの強みも持っています)
そして、彼らからは、
「このような社員に対して、変化をもたらすことはできるのか?」
「実際、コーチングは機能するのか?」
という質問を、よくいただきます。
答えは「Yes」です。
ここからは、
中国人マネージャーがその部下をコーチした事例をご紹介しましょう。
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弊社では、上海現地法人を昨年の7月にオープンし、
現在、数多くの中国人マネージャーや日本人赴任者をコーチしています。
国内外問わず、弊社の特徴は、
最短でも6ヶ月間継続してコーチをすること。
1~2日の単発研修で終わらせるようなプログラムではありません。
以下は、上海で行っているいくつかのプロジェクトの
中間インタビューでいただいた、結果の一部です。
このインタビューは、
中国人マネージャーが実際関わっている中国人の部下の方々に、
弊社コーチが直接実施しました。
「Q.あなたの上司である中国人マネージャーやリーダーとの関わりによって、
あなたや上司には、この数ヶ月間で、どのような変化が生まれましたか?」
質問に対する回答は次のような内容でした。
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部下A 「問題が起きたらすぐに、(上司に)伝えるようになった。
(上司が)話をよく聞いてくれるようになったので、
こちらからも話しやすくなった」
部下B 「(上司から)一方的に指示命令されていた関わりから、
問いかけてもらう関わりに変わった。
それによって、『苦しい』と思うこともあったけど、
結果自分自身で考えられるようになった。
また、業務上で明確な目標を立て、
それに対して毎週(上司と)話すようにもなった」
部下C 「以前は人に言われたことしかやらなかった。
今は、上司から、将来のビジョンを聞かれるようになったことで、
『自分が3年後リーダーになるとしたら、
今、何をしなければならないか』
『部下にはどうなってもらわなければならないか』
を考えて仕事をするようになった」
部下D 「(上司が)意見を聞いてくれるから、仕事がスムーズに行く。
なぜなら、第一線のスタッフこそが一番情報を持っているから。
私たちの意見を聞いてもらうことで、上司に正しい情報が入り、
結果、組織として正しい決断ができていると思う」
部下E 「自分の意見を言えるようになった。
こういうのはとてもいいと思う。
だって私たちはフロントラインで仕事しているでしょ。
以前は、ボスが先に話すと、
後からは(フロントの意見を)話しにくかったから」
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コーチングを始めた当初から
このような成果が出ていたわけではありません。
最初は、上司から部下に質問をしても、
「なんでそんなことを私に聞くの?」という顔をされたり、
意見を求めてもなかなかディスカッションにならなかったり、
ということが度々あったそうです。
しかし、彼らは、
指示命令やアドバイスをしたい気持ちをぐっと押し殺し、
なかなか自分から話そうとしない中国人の部下たちと
双方向的に関わり続けたのです。
時に気持ちの折れてしまいそうになっていた
クライアント(上司)に対して、
弊社のコーチは、「ゴール達成のため、部下と話す時間を取り、
コーチング型のアプローチで関わり続けること」を、
繰り返し要望し続けました。
こうした「継続の連鎖」の結果、
部下の変化が徐々に生まれ始めたのだと思います。
「部下が変化を起こしていくためには、
何があろうと、上司が部下と双方向的に関わり続ける」
この行動原則は、日本でも中国でも変わらないようです。
コーチングを導入している中国現地法人では、
確実に新しい風が吹き始めています。
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