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『いつも通りのパフォーマンス』を発揮する

『いつも通りのパフォーマンス』を発揮する | Hello, Coaching!
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ゴルフのコーチは、ゴルファーが毎回の試合で、パフォーマンスをいかんなく発揮できるように支援します。

同じように私たちは、ビジネスリーダーが日々の仕事で、パフォーマンスをいかんなく発揮できるようサポートをします。

相違点があるとすれば、ビジネスリーダーは、毎日が試合のようなものであり、パフォーマンスが悪くても許される日などないということでしょうか。

ただ、そうはいっても、ゴルファーにとってのパットのような「ここぞ」という場面が、ビジネスリーダーにもあります。絶対に失敗できない、というプレッシャーがかかり、「いつも通りのパフォーマンス」を発揮できるだろうか、と不安がよぎるあの瞬間......。

「経営会議で自分の提案を通すためにプレゼンテーションを行う」
「成果が上がっていない部下に対して、正面をきって厳しいフィードバックを伝える」
「全社員の前で、中期の経営計画を発表する」

私の場合は、経営トップにエグゼクティブ・コーチングをしているとき、最も強いプレッシャーを感じます。クライアントは百戦錬磨のエグゼグティブ。毎回が真剣勝負。成功させたいと思えば思うほど高まる緊張。

では、そうしたシーンに直面したとき、一体どうすれば「いつも通りのパフォーマンス」を発揮することができるのでしょうか。

これはひとつの見方ですが、「いつも通りのパフォーマンス」の発揮を妨げる最たる要因は、自分の中のおしゃべり、つまりはセルフトークです。

(社長や専務は自分の提案内容に興味を持ってくれるだろうか?)
(部下に逆切れされたりしないだろうか?)
(1,000人の部下の前で緊張せずに話をすることができるだろうか?)

未来に対する不安を自分の内側で言葉にすると、緊張や焦りが高まります。結果として、セルフトークがより激しく頭を駆け回り、さらに緊張や焦りを生むという悪循環。

ですから、「ここぞ」という場面では、なるべく緊張や焦りを煽るようなセルフトークを抑え、頭が静かな状態になっているのが望ましいわけです。ミハイ・チクセントミハイ博士(元シカゴ大学心理学教授)の言葉を借りれば、いわゆる「フロー状態」ですね。

次に、こうした状態を生み出し成功を収めた、2人のゴルファーをご紹介しましょう。

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『「ありがとう」のゴルフ』(ゴルフダイジェスト社刊)の著者である古市忠夫選手。もともとは、神戸の震災で、家、家財道具など全てを失ったカメラ店経営者でした。

奇跡的に焼け残った車のトランクの中に、たまたま置きっぱなしにしていたゴルフバックを見つけた古市さんは、「神様が『こいつで生活せい』と残してくれたんや」と、54歳でプロテストを受けることを決意。

その5年後、59歳のとき、ついにテストに合格しました。

彼は、テストの際、ピンチに陥るたびにこう思ったそうです。

(震災で全てを失いながらも、命が助かり、またこうしてゴルフができている。なんて素晴しいことだろう)

すると、胸が感謝の気持ちでいっぱいに満たされ、「無心」になってボールを打つことができた。そして、次々とピンチを脱し、プロテスト合格を手にしたのです。


もう1人は、メジャー大会で4勝を挙げているフィル・ミケルソン選手。彼は試合中、ライバルがパットをするときでさえ、そのライバルを応援するのだそうです。

なぜなら、周囲を応援することによって、実は自分自身が落ち着きを手にし、プレッシャーのかかる場面でも、いつも通りにパットが打てるから。

その結果が、メジャー大会での素晴らしい成績にもつながっているのでしょう。

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パフォーマンスが下がっているとき、人の意識の矢印は、強く自分に向いているものです。このような状態においては、「自分の成功」「自分の成果」「自分の利益」を第一に考えているため、それが手に入らないことに対する不安や緊張が高まります。

一方、人は「感謝」することで「自分の利」から離れることができ、「応援」することで、意識をより強く相手に向けることができます。そうすると、(自分の考えは受け入れられるだろうか?)といった、負の影響を与えるようなセルフトークが静まるため、「いつも通りのパフォーマンス」を発揮しやすくなるのです。

かくいう私も、エグゼクティブ・コーチングにおいて、相手を成功させたいと思うがゆえ緊張が高まったり、質問が何も浮かばず汗が額をつたったりすることがあります。

そんなときは、
(自分をコーチとして選んでくださっていることが、そもそもありがたいことじゃないか)
(相手の方に、自分がどう思われるかを気にしても仕方がない。とことん応援することだけを考えよう)
と、相手との原点に立ち返るようにしています。

すると、不思議と頭から余計なセルフトークが消え、汗もひいていくのです。

また、私がコーチをさせていただくエグゼクティブの方々の中にも、「いつも通りのパフォーマンス」の発揮を課題に挙げられる方がいらっしゃいます。そんなとき、私はこう尋ねるようにしています。

「あなたが掲げる、周りの人に対するミッションは何ですか?」

会社が掲げているミッションではなく、ひとりのリーダーとして部下に、同僚に、そして上司に、何を提供するのか。どんな使命を持って臨むのか、と。

すぐに言語化されることもあれば、人によっては1ヶ月以上かかることもあります。しかし、ひとたびこのミッションがはっきりしてしまえば、そのリーダーの持つOSでは、常に、周囲に対する「感謝」と「応援」の気持ちが起動している状態になります。

これがひいては、「ここぞ」という場面で「いつも通りのパフォーマンス」を発揮することに、つながっていくのです。


失敗の許されない「ここぞ」という場面。あなたの意識は、どこに向いていますか?

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