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伝えているはずなのに、なぜ伝わらないのか

伝えているはずなのに、なぜ伝わらないのか | Hello, Coaching!
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とある外資系企業様のオフィスで行われた組織風土変革の会議に、外部の専門家として同席させていただいたときのこと。

「自組織の風土を変えるため、各リーダーはビジョンを明確に伝えるようにしよう」

そう結論づいて終わるはずだった場の空気は、会議の終盤を迎えてもなお澱んだままでした。

そのとき、参加者のひとりが漏らしました。

「伝えているはずなんだけど、なかなか伝わらないんだよね......」

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一方、「伝え方は変えていないのに、伝わり方が変わった」というケースもあります。

以前、弊社では、食品メーカー大手の企業様より、「各販売員が、自発的に考えて行動する」ようになるためのサポートのご依頼をいただき、販売員と関わりの深いマネージャー層に対して、「相手に考えさせる質問力」を高めるトレーニングを行いました。

各マネージャーはトレーニングで身に付けた質問力をベースに、「問い」を投げかけることに注力し続けました。

半年後、企業様の調査担当者の方より、販売員の方々へインタビューを実施。その成果は次のとおりです。

「マネージャーは、以前よりも私に考えさせるようなアプローチをしてくれる」
「教えてもらうよりも、問いかけてもらう回数が増えた」

ここまでは当初の期待通りの回答です。しかし、想定外の回答も散見されました。それは、「最近、マネージャーから、ビジョンが明確に伝わってくるようになった」という内容です。

マネージャーたちには、「これまで以上にビジョンを明確に伝えている」という認識はなく、調査担当者もこの回答には首を傾げていました。

「『考えさせること』と『ビジョンが伝わること』との間に、どんな関連性があるのか?」

調査担当者の方と話し合った結果、さらにインタビューで掘り下げてみることにしました。

結果の大半は次のような内容でした。

「トレーニング開始直後より、マネージャーからは、『どのように販売を進めていくとよいのか』と質問を投げかけられるようになった。同時に、『販売を進めることで自分たちが何を達成したいのか』も問われるようになった。その結果、以前に比べ、『自分が何を目指して販売をしているのか』をより深く考えるようになった」

このコメントについて、調査担当者の方は、次のように指摘しています。

「実際に、経営層やマネージャーからのビジョン発信が以前よりも強化された、ということはなかったと思います。マネージャーの質問がきっかけとなり、販売員が、自分たちの行動の意味を考えるようになったのでしょう。つまり、販売員の側に、ビジョンをキャッチするアンテナが立ってきたのだと思います」

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また、以前参加した講演の中で、世界規模でチェーン展開している高級ホテルの日本支社長は、こう語っていらっしゃいました。

「全社員に、『最高の顧客サービスを徹底してほしい』と思っている。しかし、最高の顧客サービスという『回答』を、全ての場面、全ての社員に対して、定義し、教えることは現実には難しい。なので私は、『今、この場面での最高の顧客サービスとは何か?』という『問い』をトレーニングで繰り返し伝え、現場で反芻させるようにしている」と。

「問い」を投げかけられた時、人の潜在意識はその「回答」が見つかるまで検索を続ける、と言われています。

「販売を通して、自分たちは何を目指しているのだろう?」

前出の食品メーカーでは、こうした問いを発していくことで、マネージャーは販売員の潜在意識に爪痕を残しました。販売員の脳は、回答探しのエンジンを起動させるようになり、無意識に「回答らしい情報」を日常の中に探し続けるようになったのです。

繰り返される「問い」は、販売員の「関心の焦点」を定め、「関心の焦点」に関わる情報を、販売員が自ら探そうとするサポートをします。そこにマネージャーが関連情報を提供することで、販売員はその情報を敏感にキャッチするようになります。

「以前は一方的に指示されることが多かったが、今は、『自らの力で』回答を発見したという実感を得ることが多くなった」

実際、販売員のひとりが、調査担当者に対して語ったコメントです。

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メンバーを一定の方向に束ね導きたいとき、私たちは「メッセージを伝える」ことに腐心します。

もちろん、伝える頻度や明瞭さを向上させることで、メンバーの心の近くにまで、メッセージを届けることは可能かもしれません。

一方で、「伝えているんだけど、伝わらないんだよね......」という冒頭のリーダーのような事実も少なからず存在するものです。

そのようなとき、「問い」を投げかけることで、メンバーの心の中に「メッセージを欲する状態」を作り上げることは、選択肢の1つといえるでしょう。

あなたは、誰に、どんなメッセージを伝えたいですか? そのために、どんな「問い」を投げかけていますか?

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