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事実を聞く
コピーしました コピーに失敗しました10数名の部下を持つ部長クラスの方々のエクゼクティブ・コーチングをさせていただいています。
先日、その方々を対象に、コーチングスキルの強化トレーニングを行いました。
トレーニングの一環として、ふたり1組でコーチ役(上司)、コーチを受ける役(部下)になりきっていただき、10分ほどのロールプレイをやっていただく。
その間、会場を見回していると、ある組の興味深いやりとりが私の耳に入ってきました。
ロールプレイ 上司(コーチ役)と部下
上司役 「○○さん。ところで、A社さんとの話はどうなったの?」
部下役 「すみません。担当者の方がなかなか返事をくれなくて、困っているんです。私も粘ってはいるのですが、どうもはっきりしなくて......」
上司役 「それで、どうするつもりなの?」
部下役 「このままでは時間が過ぎていくばかりなのですが、一方で、もう少し待っていればいいお話をいただけるのではないか、という期待もあって......」
上司役 「君、そんな悠長なことでいいと思っているのか!?」
ロールプレイとはいえ、部下役の方もなかなかの役者です。上司役の方は、のらりくらりと返事をする部下役を何とかしようと、四苦八苦しています。
この際、コーチである上司役の会話からは、ある1つの特徴が見て取れます。それは、「部下に対して、実際に起こっている具体的な事実を何1つ聞いていない」ということです。
たとえば、
- A社の担当者とは、何回くらいそのことについて話をしているのか?
- 返事はいつまでにもらう約束をしているのか?
- 他にどういう選択肢を提案しているのか?
- 他の人からはどういうアドバイスを受けているのか?
etc......
上司役の方はそれらを聞くこともせず、ただうまくいっていないことに対して、叱咤や詰問をしているだけなのです。
事実を聞くことによって、相手がとっている行動や考え方を知ることができ、適切な提案やリクエストを投げかけられる可能性が高まるにもかかわらず、その機会を無意識に放棄してしまっています。
では、なぜ、上司は、せっかくの機会を放棄してしまうのでしょうか?
要因として考えられるのは、上司のほうに、「この部下にはできないだろう」とか「このままいくとこの部下は絶対に目標を達成できない、どうにかしないと」というストーリーがすでにできあがってしまっている、ということ。
そして、それに対処することに精一杯になってしまっている結果、事実を聞くことがおざなりになっている、ということです。
成功するリーダーは、数値や具体的な行動などについて扱っている
モチベーション研究のスペシャリストであり、リーダーシップとモチベーションの向上についての著書『Succeed: How we can reach our goals』を持つHeidi Grant Halvorson博士。
彼女は、自身が掲げる「成功する人はどこがちがう? 9つの行動パターン」のトップとして、「具体性」を挙げており、「成功するリーダーは、数値や具体的な行動などについて扱っている」と述べています。
もし先ほどのロールプレイの場面で、上司役が数値や具体的な行動について扱ったとしたら、おそらく次のような会話になるでしょう。
上司役 「相手の担当者の方とは、そのことについて何回話をしているの?」
部下役 「今回が2回目の提案でした」
上司役 「返事はいつまでにもらう約束をしているの?」
部下役 「まだ紹介の段階だと考えていたので、返事をもらう約束はしていません」
上司役 「次は、どういうアクションを用意しているの?」
部下役 「2週間待ってみて、お返事をいただけないようだったら、こちらから再アプローチをとろうと思っています」
具体的な事実を聞き出していけば、部下は、次に自身がとるべき行動を自覚します。しかし、多くの場合は、その機会が得られないまま、横滑りに違う話へと発展してしまうのです。
どんな場面においても、一貫して事実を聞き続ける
私が日々接している優秀なコーチング型マネージャーには、「具体性」に関する共通した特徴があります。
あるマネージャーの専門は経理。その方と部下との会話を聞いていると、「こういうケースが起こった場合はどうするの?」と具体的な質問をして、相手からの返事を辛抱強く待っています。
部下は考えながら話をし、その過程でやるべきことをどんどん具体化していくのが聞いて取れます。
もうひとりのマネージャーの専門はリサーチ。リサーチャーとして相手の背景を聞いて取ることが仕事ですから、不明確なことがあると「それはつまりどういうこと?」と関心を持って具体性を求めていきます。
聞かれている部下は、背景を思い起こしながら話すので、次第に新しい気づきや発見を得ていくのが手にとるように分かります。
ふたりに共通している特徴は、「いつ、どんな場面においても、一貫して事実を聞き続けている」ということです。
経理は数字、リサーチャーは膨大な生データというように業務上、事実を扱うことが多いふたりのマネージャー。
彼らは、業務を通じて、「事実を聞く」というコーチングマネジメントにおいて有益な能力を、日々トレーニングしているといえるでしょう。
「事実を聞き、事実に直面させる」
そのことを実践するだけで、相手は自ら前進することを選ぶようになるのです。
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