Coach's VIEW

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上下ではなく、対等な関係を築く

「うちの会社は、
 部下が、上司と仕事以外のことで関わろうとしないんです」

「部下は言われたことはやるけれど、それ以外の仕事を自主的にしたり、
 自らリクエストをしてきたりすることは少ないですね」

日本にいるエグゼクティブや管理職の多くが、そう口にします。

これは、何も日本に限ったことではありません。
私が足しげく通う中国でも、同じようなケースが頻繁に起こっています。

しかし、中国には、日本にはない概念があります。

それが、「グワンシ」です。


グワンシとは、「関係」の中国語読みで、
数千年の歴史の中で中国人の行動原理として育まれてきた、
いわば、中国人特有の「人間関係の作り方」です。

中国人は、ある人を一度信用したら、
自分の家族同様にその関係を大切にするといわれています。

そして、その関係は、組織や社会的なルールにも優先するといいます。


この「グワンシ」、強い信頼関係づくりは、
ビジネスシーンにおいても不可欠なものです。

一方で、生半可なコミュニケーションでは形成できないのも事実です。


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とある日本の上場企業A社は、上海に販社を持っており、
中国における売上を5年で倍増させるというミッションを掲げています。

これは、中国へ進出して久しいA社にとって、
相当なストレッチゴールです。

上海の副総経理のBさんは、営業の統括責任者で、
この売上倍増計画の目標達成の鍵を握っています。

Bさんは、長年勤務した日本本社から派遣された中国人管理職です。

「このゴールを達成するには何が必要なのか」Bさんは考えました。
その結果、ひとつの結論に達しました。

それは、自分の仲間を募って、協力を仰ぐこと、
つまり「グワンシ」を形成することでした。

同じ中国人であっても、
日本本社からの赴任者として見られていることを痛感していたBさんは、
中国各地の拠点の中国人営業部長と、
今以上に信頼関係を構築し、協力を仰げる間柄になることで、
一緒に目標達成に向かっていこうと考えたのです。


これまで、Bさんが中国各地の拠点長と話す機会は、
出張の合間しかありませんでした。
しかし、この頻度では、目標達成には間に合わない。

そう感じたBさんは、営業部長と話すために頻繁に出張するようになり、
話す機会を、2~3倍に増やすことに成功しました。


とはいえ、広大な中国の土地で出張を繰り返すことは、
日本人が想像する以上に大変なことです。

しかも、Bさんは上司の立場ですから、
いざとなれば、営業部長たちを呼びつけることもできたでしょう。

しかし、グワンシは横の人間関係。
そこには本来、部下も上司もありません。
しかも今回は自分から協力を仰ぎにいくわけですから、
あえて自ら出向いていきました。


当初、営業部長たちの口はみな重かったそうです。

しかし、そんな部長たち一人ひとりを前に、
Bさんは一方的に指示・命令をするのではなく、
「何をしたいのか、どんなことを実現したいのか」について
繰り返し聞いていきました。

そのうち、いろいろな話をしてくれるようになり、
同時に、彼らの行動は、3ヶ月ほどで目に見えるほど変化していきます。

これまで、Bさんの指示を待って行動していたのが、
自発的に行動計画を立てて行動するようになったというのです。


加えて、これまでは全くといっていいほどなかった
提案や相談が持ちかけられるようにもなりました。

あるとき、営業部長Cさんは、Bさんに、
自身の今後のキャリアについての相談をしてきたそうです。

「この会社で昇進したいと考えているが、昇進するためには、
 自分には○○のスキルが欠けていると思う。
 そのスキルを伸ばすサポートをしてもらえないだろうか」

というものでした。

「中国人にとって、他人に、ましてや上司に、
 自分が何かをできないことを認めるのは、
 本来屈辱的なことと考えられています。

 それだけに、この相談があったときは、
 信頼関係が構築されたと感じ、とてもうれしかったですね」

そう語るBさんは、
それぞれの部長との間に構築した「グワンシ」をベースに、
会社全体の営業活動にドライブをかけ始めています。


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先日、『グワンシ 中国人との関係のつくりかた』※の著者
デイヴィッド・ツェ教授(香港大学商学院国際マーケティング学部長)と、
個人的に議論する機会を持つことができました。

その際に、ツェ教授が興味深いことをおっしゃっていました。

「グワンシは、中国特有のものではあるけれども、
 『対等な協力関係を築く』という意味においては、
 とてもユニバーサルなものだと思いませんか。

 日本企業は、どうしても
 上下関係の中でビジネスをしたがる傾向にあります。

 しかし、日本企業がグローバル化していく中で必要なのは、
 対等な協力関係を築く能力です。

 中国で成功している欧米企業は、どこもその点を押さえています。
 縦ではなく、横にネットワークを作って深めていくこと、
 これを学ぶことが重要ではないでしょうか」


上下関係の中でできることの限界は、
我々自身、うすうす気が付いているものです。

「組織外、組織間に限らず、
 上下関係を越えて、対等な協力関係を作っていくこと」

このことがこれからのグローバルビジネスのキーに
なっていくのではないでしょうか?


中国特有といわれる「グワンシ」に学ぶべきところは、
多々ありそうです。


※『グワンシ 中国人との関係のつくりかた』
 (デイヴィッド・ツェ, 吉田 茂美  共著、ディスカヴァー刊)

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