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エトス

エトス | Hello, Coaching!
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コーチングプログラムのキックオフミーティングなどの際、参加者であるマネージャーやエグゼグティブの方に、次のような質問をすることがあります。

「部下に対して、自分はリーダーとしてどうあることが大事だと思いますか?」

あくまでも私の経験の範囲ですが、頻出フレーズベスト3は、
「方向性を明快に示せる」
「決断できる」
「部下を鼓舞し、モチベーションを上げることができる」
です。

一方、聞き方を変え(同じグループに2度ではなく、別のグループに)、「自分の上司に対して、リーダーとしてどんなことを求めますか?」と尋ねると、
「信頼できる人であってほしい」
「公平であってほしい」
「言行一致させてほしい」
といった意見が多く出ます。

もちろん「方向性を示してほしい」などのフレーズも出ますが、その数は上の3つほど多くはありません。


ギリシアの哲学者アリストテレスは、「人を説得するときに大事なのは、『ロゴス』『パトス』『エトス』である」と言いました。

ロゴスは論理、パトスは情熱、エトスは人としての信頼性です。

このうち、最も大事なのはエトス(信頼性)であり、たとえどれだけロゴス(論理)とパトス(情熱)があっても、エトスがなければ人は説得され得ない、といわれています。

要するに、人を説得するには、まず相手との間に信頼感を醸成し、その上で論理を気持ちを込めて伝える必要があるということですね。

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私が仕事で関わっている大手製造会社のとある執行役員は、プレゼンテーションに大変な自信を持っていました。

一度ビデオで彼が話しているところを見ましたが、とても明快かつ、情熱的にオーディエンスにコミュニケートしていました。

しかし、彼の周りの方にインタビューをしてみたところ、彼のプレゼンテーションのうまさほどには、周りは彼のメッセージを受け取っていない、ということが分かりました。

「言っていることは分かるんですけど......」

そんな発言が多く聞かれたのです。

どうやら問題は、「パッションを持って明晰な話をしさえすれば、部下に必ず伝わるはずだ」と信じて疑わない彼のスタンスにあるようでした。

部下と日々信頼関係を形づくるということについての意識が薄いようなのです。

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リーダーという立場に立つと、「ロゴス(論理)とパトス(情熱)さえあれば、人は動く」とつい思ってしまいがちです。だからこそ、「リーダーとして何が大事だと思うか?」と尋ねられれば、「方向性を明快に示せる」「部下を鼓舞できる」などの表現が多くの方の口から出てくるわけです。

しかし、部下という立場で質問を受けると、リーダーに求めるのは、ロゴス(論理)、パトス(情熱)よりもまずエトス(信頼性)、ということになる。おそらく、「エトスがなければロゴスやパトスも受け取れない」ということを感覚的に知っているのでしょう。

では、自分のエトス(信頼性)を高めるためにはどうすればいいのか。

いろいろな切り口があると思いますが、私が考える大事なことの1つは、相手と「約束」をし、それを果たすことです。

当たり前ですが、人はひとりでは生きていけません。

大昔は他の動物に対してアドバンテージを取るために、有史以降は他の人間の集団に勝つために、人は周りと協力関係を築いて生きてきました。ですから、今、目の前にいるこの人と協力関係が築けるかどうかということを、私たちは敏感に察知しようとします。

その結果、協力関係が築ける人と認識し信頼する人はどういう人かというと、約束を守ってくれる人ということになります。約束を守ってくれない人とは協力関係を築きようがないですから。

よって、他人との間にエトス(信頼性)を育もうと思えば、事の大小にかかわらず、日々たくさん約束をし、それを果たしていくことが求められます。

「いつまでに何をやる」と約束したらそれをきっちり果たす。

こうした一つひとつの積み重ねで、お互いの信頼が培われていきます。

部下は、その上司が、約束を守る人か、そして、信頼するに足る存在かを見ています。それが果たされて初めて、ロゴス(論理)とパトス(情熱)が意味を持つ。

また一方で、あなたに上司がいるとしたら、上司の側も、部下であるあなたが信頼できる人間か見分けることに腐心しています。期限は守っているか、やると宣言したことをやり遂げているか、朝は時間通りに出社しているか......。そう考えると、あなたは、部下に対しても上司に対しても、信頼を獲得するために約束をし、守り続ける必要があります。

どの立場にあっても、まずエトス(信頼性)を高め、ロゴス(論理)とパトス(情熱)をそれに続ける。

そうすることで、リーダーとして放つ周囲への影響力を高めていくのです。


【参考文献】
『人を動かす! 話す技術』(PHP新書刊 杉田敏著)

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