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なかなか会えないのに、つながっている組織

なかなか会えないのに、つながっている組織 | Hello, Coaching!
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従来、経営における代表的な経営資源には、「人」「物」「金」「情報」の視点が挙げられますが、私たちがここ数年注目して研究してきたのは、「人と人との関係性」という資源です。

人そのものの能力の向上はもちろん必須ですが、「人と人との関係性」の向上も組織パフォーマンスアップにおいて、無視することはできません。それは、たとえハイスペックなパソコンが何台あったとしても、ネットにつながっていなければ、限定的な成果しか出せないのと似ています。


コーチ・エィの関連会社であるコーチング研究所(CRI)では、組織の中での「人と人との関係性」を見える化し、診断するアセスメント「COMPass」(※1)を開発・提供しています。

たとえば、
・日頃からメンバー同士での会話が多く、仲間意識も強く、一体感がある。
・自分のもっている知識やアイディアを積極的に仲間に提供する。
・お互いの成長のため、組織の成長のために忌憚のない意見を言い合うことができる。

チェック項目を通じて、こうした特長が見られる組織を、「共創型」といいます。

「共創型」は、一人ひとりがつながり、お互いを認め合い、刺激をしあって、よりよいものを創出しようとするクリエイティブな関係性がある組織を指します。

一方、
・メンバー同士の挨拶がない。会話がない。仕事に追われて余裕もない。
・メンバー間の関わりが少なく、協力関係もない。メンバー同士の相乗効果もない。
・思うところがあっても他人に対して指摘することもない。
こうした企業は、「孤軍奮闘型」です。


半年前、ある企業から依頼があり、全国に拠点展開している営業所ごとに、「人と人との関係性」の診断をしました。

その結果、ほとんどの営業所が、典型的な「孤軍奮闘型」の組織になっていました。

この会社の営業メンバーの多くは、営業スキルやキャリアを買われて中途で入社しており、日中はそれぞれの営業先に赴き、活動にまい進しています。入社当初こそ教育担当がつきますが、半年後には個々人にノルマが課せられ、「あとは自分次第」といった風土。ですから、営業メンバー同士でのつながりをなかなか構築することができず、「社員同士の協力関係がない」「自分の中で悩みを解消することができない」といった弊害が生まれやすい環境でした。実際、健康を害してしまったり、離職してしまったりする社員も少なくありませんでした。

組織診断後半年間、この会社では、全社活動として「働きやすい職場作り」を目指し、様々な施策を打ってきました。

社員同士の関係性を高めるために、社員旅行やBBQ、ボウリング大会といったレクリエーションなどのイベントを実施することを推奨し、金銭的な支援もしてきました。

しかし、普段の業務やコミュニケーションのあり方自体はそのまま。あいかわらずメンバーは直行直帰。社員同士が顔を合わせることができるのは週1回、月曜日午前中のミーティングだけ。

先日も半年後の定期診断が実施されたものの、ほとんどの営業所では変化がみられませんでした。十分すぎるほどの金銭的な支援があったにもかかわらず、です。

そんな中、1ヶ所だけ、「COMPass」の値を急激に伸ばしている営業所がありました。しかも、「孤軍奮闘型」から、一気に「共創型」へ。いったい、その営業所では、この半年間で何が起こっていたのでしょうか?


この営業所は、モデル営業所として、診断後、私をはじめとした弊社のコーチが半年間継続的に関わっていました。その中で、診断結果に対して強い危機感を抱いていた営業所長の呼びかけにより、若手らを中心としたプロジェクトメンバーが、活性化施策について考えるミーティングを開催。私たちコーチも同席させていただきました。

最初、ミーティングは思うように進展しませんでした。活性化させるためのアイディアは出るものの、その多くは一過性のもの。こうしたアイディアに対しては、「それだけではすぐに飽きてしまうよ」と皆が口々に言います。こちらからも、他社で成果を上げている「毎朝の朝礼で同僚同士、3分間コーチングしあう」というアイディアをご紹介したものの、営業メンバーから出てきたのは次のような意見でした。

「効果はあるかもしれないけど、うちにはなじまないのではないでしょうか。直行直帰を変えてまで、わざわざ出社していたら、かえって業務効率が落ちてしまう」

平行線をたどる議論。それを横目に、営業所長はこう思ったそうです。

「せっかく集まってもらったが、やはりこの環境を変えるのは難しいのか......」

そんな中、ある若手メンバーのひとりが、ソーシャルネットワーク、中でもFacebookは使えるのではないか、と切り出しました。

「Facebookで大学や高校の同級生とつながっているが、実際にはなかなか会えなくても、心理的には毎日会っているような感覚がある」

20~30代が中心のプロジェクトメンバーも、このアイディアには共感を抱いているようです。

「なかなか会えないのに、つながっている」。

これは、もしかすると、この職場で起きている問題点を解消するツールになるかもしれない。とはいえ、営業所長はFacebookに触れたこともなければ、知識もありません。ましてや他の営業所でも前例はないことです。

当然、リスクはあります。それでも、少しでも可能性があるのなら、と営業所長は会社の承認をとり、この取り組みを実行に移すことを決意しました。


もともと、この営業部隊は、全社的にスマートフォンを導入していました。そこでまず、メンバー30人全員にFacebookに登録してもらい、ウェブ上でつながりました。

Facebookは設定によって、限定メンバーだけが会話できる「場」を用意することができ、外部にはそこでの会話が漏れないようにすることができます。

それぞれのメンバーの「今日は暑いね」「ちょっと、ひとやすみ」といったコメントに対して、他のメンバーからは「お疲れ!」「もうひと頑張り!」の一声。

あるメンバーが「今、お客さんから、褒めていただいた」と書き込めば、何人ものメンバーから、「いいね!」の承認が返ってくる。いままで職場では見たこともないような一面や、休日のシェアなど仕事では見られないその人らしさを感じることで、相手に対して親近感が湧いてきます。

その関係性は次第に業務面でも発揮されていきました。

「こういうとき、みんなだったらどうしている?」のコメントひとつで、他のメンバーからアイディアが集まってくるようになったのです。

また、営業所長自身も、「今日は、お客様の●●様と会食しました」「本社の営業会議で、本部長からこういう指摘を受けました......」など、メンバーに対して頻繁に発信するようにしました。

それによって背景情報が共有され、営業所長の指示は「突然の指示」ではなく、「来たるべくしてきた指示」になります。当然、それに対するメンバーの動きは早い。意図が分かっているので、行動のブレも少なくなったそうです。


確かに、この営業所は、他の営業所と異なり、コーチが関わったという事実があります。

とはいえ、それだけでこうした「共創型」の組織が生まれたわけではありません。

診断結果を受け止め、営業所長は必死に改善策を考えました。そして、まずメンバーを巻き込み、メンバー自らに新たなアイディアを出してもらいました。さらに、自分にとっては不慣れなソリューションでも、積極的に取り入れました。

従来のソリューションだけでは、なかなか乗り越えられなかった、そして、諦めてしまいそうになっていた壁を、営業所全体の力を結集して乗り越えたのです。

当初は、ソーシャルメディアに疎かったこの営業所長。今では若手に負けないほどのリテラシーが身についた、と話す彼は、今日もメンバーからの書き込みを楽しそうに眺めています。

※1 「COMPass」のサービス提供は現在中止しています。

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