Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
海外拠点を強化するキーサクセスファクター
コピーしました コピーに失敗しました今、日本企業の海外進出が加速しています。
それに伴い、海外拠点においては、「人と組織の強化」に向けた意見交換の機会も増えてきています。
先日私は、弊社の海外拠点の1つであるシンガポールで、サービス業に従事する企業でGMを務めるA氏にお会いしました。実はA氏とは、赴任前、日本にいるときからのお付き合いで、着任が正式に決まると、直ちに次のようなリクエストを残して赴任国へと向かわれました。
「着任後の整理が終わったら、早速、ローカルマネージャーのマネジメント力強化に着手したい。彼らをいち早く、マネージャーとして成長させたい。それこそが、拠点の成長エンジンになる。そのときには栗本さんに、ぜひ協力してほしい」
私は、シンガポールをはじめ、ニューヨーク、上海など、弊社の海外拠点に出向くことが多く、現地の海外拠点長とお話しする機会がありますが、A氏のような考え方は、海外拠点の長期的な発展を見据えたリーダーたちから、よく聞かれます。
海外拠点における「リーダーシップ」と「業績」の関連性について、あるメーカーのアジア地域統括人事の方から、興味深い話を聞きました。
「ほぼ同時期に開設した、隣接する2つの海外拠点AとB。A拠点の売上はB拠点の4倍近くに達しています。一方で、日本人比率でみると、A拠点はB拠点の3分の1以下。A拠点では、現地化が進み、ローカルマネージャーが現場を仕切っている反面、B拠点では、日本人が仕事を抱え、多忙を極めており、ローカルスタッフは指示待ち状態。地域や人材の違いだけが、この歴然とした差を生み出しているとは考えづらい。要因は、駐在員のリーダーシップにあるのではないか」
両拠点のトップの違いをより詳しく聞くと、次のことが分かりました。
・A拠点のトップは、着任時までに、営業、技術、オペレーションなどの各業務に関する経験があった。また、着任間もなく「ローカルマネージャー育成に注力する」という方針を、駐在員達に浸透させた。
・B拠点のトップは、営業に関する実績と経験は豊富だが、その他の業務経験が浅かった。そして、まずは「日本人が率先して業績を上げる」ことに注力した。
B拠点のトップは、業績向上というミッションを忠実に遂行しようとしたのでしょう。
しかし、経験豊富なA拠点のトップは、「『どんな犠牲を払ってでも結果を出す』タイプのエグゼクティブは、実は、組織の利益を減少させている(※1)」という事実を知っていたのかもしれません。
このA拠点のトップのような経験豊富なリーダーと話をしていると、ある共通の施策があることに気がつきます。
それは、現地のローカルマネージャーが抱える「不安への配慮」と、「切望への具体的打ち手」です。
彼らは、「拠点の事業をいかに成功させるのか」という問いと共に、「彼らのために何を叶えるのか」という問いも持ち合わせています。
下記は、ピッツバーグに本社を置く、人的資源の活用・育成・管理分野における、世界最大規模の人材コンサルティング会社DDIによる、ミドルマネージャー(中間管理職層)に関するグローバル調査結果(2010年)をまとめたものです。
ミドルマネージャーは、
・他企業、他組織に転職するのではなく、現在所属する組織内でのキャリアアップのシナリオを描いている
・昇進や成長の機会を切望している
・しかし、成功するために必要なリーダーシップスキルが十分ではないと感じている
上記の傾向は、東南アジア地域で、特に顕著であるといわれ、こうした不安や切望に対して、具体的な打ち手を持ちうる企業が成長を続けているそうです。
では、打ち手を持たない企業はどうなってしまうのでしょうか?
高い知名度とブランド力から、シンガポールで優秀な人材の獲得に成功してきたC社。その拠点長が、肩を落としながら次のように語ってくれたことがあります。
「我が社では、自由闊達な雰囲気、挑戦できる風土が誇りでした。しかし今、将来を期待して、マネージャーに昇進させた次世代リーダー候補の離職が止まらない。『成長の機会が少なすぎる』『チャレンジの機会が少なすぎる』彼らはそう言い残して辞めていくのです」
拠点業績を叩き出す優秀人材を定着させ、戦力化させるために、リーダーは何にフォーカスする必要があるのか。その1つの鍵が、彼らの「成長」にあることを物語っています。
海外拠点の業績を高めるためには、並行して粛々と「ローカルマネージャーの開発」を進めなければならない。
経験豊富なリーダー達は、そのことを理解し、具体的に実行に移しています。
冒頭でご紹介したA氏は、赴任先であるシンガポールで、現地の様子を自分の目で確かめた後、私に対して次のような決断をしてくださいました。
・組織のビジョンやバリューの浸透、および業務能力の向上に向けたOJTは、やはりラインで行うべきだと思う。そこは、A氏自身の組織でイニシアチブを取って進める。そのために、中心人物であるA氏自身が、施策推進のスピードにドライブをかけるためにコーチをつける。また、実践を通じて、ローカルマネージャー育成に必要なコーチングスキルも備える。
・一方、各ローカルマネージャーのリーダーとして自己成長、そこに向けた客観的で相対的な視点からの指摘、そして部下に対するリーダーシップの強化については、外部の力を借りる。具体的には、ローカルマネージャーにコーチ・エィのコーチをつけ、部下とのやりとりについてコーチしていく。同時にコーチングスキルも身につけていく。
「この両者を組み合わせた、いわば『上と横からの育成』で、ローカルマネージャーの育成にドライブをかけようと思う」と。
「『速やかにローカルマネージャーの強化に着手すること』は、海外拠点における『人と組織の強化』のキーサクセスファクターの一つである」という事実が、ここにまた実証されようとしています。
【参考文献】
※1 New Study Finds Nice Guys Finish First When It Comes to Performance Copyright MediaTec Publishing Inc.
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