Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
無意識を意識化する
コピーしました コピーに失敗しました先日、NHK総合の「クローズアップ現代」で、コーチングの特集が組まれました。
タイトルは、「"コーチ"をつける社長たち」。
先の見えにくい時代の中で、経営者がコーチというプロフェッショナルをどう活用しているかが番組の焦点でした。
私のクライアントである経営者の方も番組に登場されました。
2代目経営者としていかに社員の心を掌握するかに腐心されていたときに、その方は私にコーチングの依頼をしてくださいました。
「どんなに思いを伝えても部下に響かない」
「どうすれば部下に自分のメッセージを100%届けることができるのか」
それがコーチングのテーマでした。
彼がリーダーとして変容を遂げるターニングポイントとなったのが、部下から取ったアンケートに現れたフィードバックです。
「熱く想いを伝えてはいるが、社員の話に耳を傾けていない」
同様の言葉がアンケートには数多く並んでいました。
フィードバックは、決してその方にとって心地よいものではなかったと思います。目を背けたくなるものだったかもしれません。
しかし、「会社を良くしたい」という彼の思いは、社員からの言葉に向き合うことを選択させました。そして、このフィードバックは、彼が現場の意見に真摯に耳を向ける大きなきっかけとなりました。
エグゼクティブ・コーチングでは、必ず周囲から、クライアント本人に対するフィードバックをとります。
なぜなら、「人はなかなか自分では、自分がどのような行動をとり、どのような影響を周囲に与えているかを認識しきれない」という前提があるからです。
周囲に働きかけているときは、目は完全に「外」を見ています。その瞬間、自分を捉えることは基本的にはできません。
大きな影響力を持つエグゼクティブが、自分の行動によって無意識のうちに組織にマイナスの影響を与え続けていることは、よくあります。フィードバックでは、そこをしっかりと、くっきりと照らし出すわけです。
とはいえ、「自分ではなかなか自分のことはわからないものだ」ということを、エグゼクティブの方にわかっていただくのはそう簡単ではありません。
先日も、ある企業の人事部長から、「弊社の取締役にコーチをつけたいので、本人にエグゼクティブ・コーチングについて説明をしてほしい」とリクエストをいただき、その会社を訪問しました。
その取締役は、私の話を受け、「そうそう、人は自分のことはわからないものだよね。エグゼクティブにコーチは必要だよ」とおっしゃいました。しかし、話がいざ自分のことに向けられると、この取締役はこうおっしゃったのです。
「俺は別にいいよ。俺は自分のことわかっているから」
彼は、「最もコーチングが必要な役員」と周りから言われているにもかかわらず、です。
では、一体、どうしてこういうことが起きるのでしょうか。
実はほとんどの「問題行動」は、「無意識に」行われています。無意識ですから、本人は問題行動を起こしているという認識がない、あるいは、認識があったとしても極めて薄いわけです。
多くの問題行動は、最初本人がそれをやり始めたときには、問題行動ではなかったのでしょう。それどころか、本人に多くのメリットを与える行動だったかもしれません。だから、それを繰り返しやるようになり、いつしかそれが「パターン」になる。パターンになると、自転車を漕ぐのと同じで、いちいち意識しなくてもできるようになります。
つまり、「無意識化」するわけです。
無意識化した行動が本人と周りにメリットを与え続ければいいのですが、取り巻く環境や文脈は日々刻々と変わるものです。よって、その変化に対して、自ら行動にも変化を与えていかない限り、遂にはそれがデメリットを与えるものとなりえます。
しかし、これはもはや意識行動ではありませんから、本人としては修正のしようがなくなるわけです。こうして問題行動は無意識に維持され続けます。
「ひとりで熱く語り続ける」
「何でも自分で抱えてやってしまう」
「教えすぎる」
「干渉しすぎる」
「マイクロマネジメントをしてしまう」
問題行動化したエグゼクティブのビヘイビア(行動)の多くは、無意識に起こっているわけです。
実際、数多くの方のエグゼクティブコーチを担当し、企業のリーダーでもある私ですが、私にも「無意識化」している行動が数多くあります。
「スケジュールを目一杯入れてしまい、考える時間が少なくなる」
「仕事を依頼した後のフォローアップが甘くなる」
「短期的なパフォーマンスの向上を優先し、中長期的な仕込みが後回しになる」
こうしたことは気がつくと起こってしまっているわけで、決して意図して起こしているわけではありません。
しかし、
「周囲の意見を聞かず、ひとりでずっと話し続けています」
「ものを決めてくれないですね」
「細かいことに首を突っ込みすぎていると思います」
このようなフィードバックを受けることで、自分が無意識に起こしている行動が「意識化」され、行動を「選択」できる状態になります。
フィードバックを受けたからといって、必ずしもその行動を変える必要はありません。
大事なことは、意識化した行動を起こすか起こさないか、その時々の状況に合わせて判断できるようにすることです。
優秀なエグゼクティブはたいていの場合、自分が何をやっているかが明らかになり、それが自身や組織にとって必要だと判断しさえすれば、行動を修正できるものです (ただし、周囲に与える影響が思わしくないとわかったうえで、あえてとっている行動を変えるのはそう簡単ではありません。例えば、「部下の話は聞かない方がいい」と決めて行動しているようなエグゼクティブに対して、話を聞くことを選択していただくためには、また異なるアプローチが必要です)。
冒頭でご紹介した私のクライアントである経営者の方は、フィードバックを活かして、ご自身の行動を大きく変えられました。
現場に赴き、社員の声に耳を傾け、意見を経営に取り入れるようになりました。
会社はこの数年間で大きく成長しています。
「無意識化された問題行動にフィードバックを与え、意識化させる」
エグゼクティブの行動変容を目的とするコーチングにおいて、とても大事なステップのひとつです。
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