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相手の思っている私
コピーしました コピーに失敗しました360度フィードバックには、次の2つの側面があります。
「フィードバックを受ける側」
「フィードバックをする側」
そして、一般的に焦点は、「フィードバックを受ける側」に当たっています。
コミュニケーションという観点からみれば、
「私の思っている私」
「相手の思っている私」
この両者には必ずギャップがあります。
たとえば、自分のコミュニケーションについて、自分では良いと思っている。自分の話していること、自分の書いた文章は、ほぼ無意識的にこれで良いと思っているわけです。
しかし、コミュニケーションにおいてもっとも大切なのは、相手にどのような影響を与えたかであって、いくら、自分で「これで良いはずだ」と言い聞かせてもそれはあまり意味のあることではありません。
自分のコミュニケーションが、相手にどのような影響を与えたか。それを知るためには、相手や第三者から、フィードバックを受ける以外にありません。
フィードバックのポイントは、「ポジティブ」「ネガティブ」の2つです。
ポジティブなフィードバックを受け取ることで、今まで自分では気づいていない自分の強みや、うまく機能しているポイントなどを知ることができます。それは自分に対する自信や、現在の取り組みを迷いなくさらに力強く継続することにつながるでしょう。
ネガティブなフィードバックを受け取ることで、自分が意図しないで他者に与えている思わしくない影響を知ることができます。それを知ることで初めて、私たちは軌道修正をすることができます。もし、そのフィードバックがなければ、軌道修正することなく、自分にとって思わしくない方向に進み続けることになります。ネガティブなフィードバックとは、大局的に見ればとても大切でポジティブなフィードバックなのです。
360度フィードバックはほとんどの場合、このように「フィードバックを受ける側」がそれを利用する目的で使われています。
ではもう一つの側面、「フィードバックする側」から見るとどうなるのでしょうか。
私たちは人と関わるとき、その人のあるがままと関わりを持つというより、その人に対するイメージや自分の持つ解釈を通して、その人と関わりを持っています。
「~さんはこういう人」
その人とのこれまでの付き合いや、記憶に残る印象などから、形作られたその人のイメージを持っているのです。
イメージを持つことで、その人とのコミュニケーションを円滑に、スピーディーにとるための指針としているのです。
それはそれでとても役に立っているわけですが、逆の見方をすれば、かなり固定化した幅の狭いイメージの中でその人と関わっているとも言えます。
もしその人に対するイメージを変化させたり、拡大させたりすることができれば、関わり方の幅を広げることができます。
「~さんにはこんな一面もあるんだ」
ふとした機会に、その人のこれまで見えていなかった一面に触れることで、その後のコミュニケーションに変化が起こることは、私たちがよく体験することです。
もし、360度フィードバックで、他者がその人に対して行ったフィードバックを共有することができれば、その人に対する今までとは違った一面に関する情報を、大量に知ることが可能となります。このとき、一瞬にしてイメージの拡大が起こるのです。
以下は、先日、私自身が実施した「タイプ分け360度フィードバック」(※)の結果です。
職場のスタッフで仕事上の接点のある人、近くにいて私のコミュニケーションを知っている人、計28人からのフィードバックです(上段が自己評価、下段が他者評価の平均)。
コントローラー 28点
25点
プロモーター 39点
32点
サポーター 11点
13点
アナライザー 14点
13点
また、テストに設けられているフリーコメント機能を使って、私自身が設定した問いは、以下の3つ。
・桜井のコミュニケーションの癖は何ですか?
・桜井のコミュニケーションの強み、弱みは?
・桜井はあなたにどのような影響を与えていますか?
それに対して、こんな回答がありました。
「何が本質かをスピーディーに見極め、短時間で決定していく行動力に刺激を受けた」
「必要なことを妥協することなく提案する姿勢は、自分の営業に対するとらえ方や行動に強く影響した」
ポジティブなフィードバックは、いままでの自分のコミュニケーションにおいて、大きな自信になります。
「なかなか動いてくれない。保留にされることが多い」
「相談すると答えを出してくれるので頼ってしまう。依存的になってしまうことがある」
ネガティブなフィードバックは、少しショックはありますが、冷静に考えたとき、とても参考になります。このフィードバックがなければ軌道修正する機会はありません。
ポジティブなフィードバックも、ネガティブなフィードバックも一つひとつが私にとって、とても貴重なものでした。
ここまでは、「フィードバックを受けた側」としての話です。では、「フィードバックをする側」にはどのような成果が生まれるのでしょうか。
日頃私たちは、その人に対する漠然としたイメージの中で関わりを持っています。
ところが、フィードバックをしようと思うことで初めて、その人に関心が向く。フィードバックという機会がなければ、なんとなく「あの人は~な人」というようなおぼろげなイメージの中でその人と関わっているだけなのです。関わりがあるようで、実は無いような状態が続いているわけです。
「この人は、4つのタイプのどれに当てはまるのだろうか?」
それを考えようとすることは、イコールその人のことを考えようとするということ。「~さんは、コントローラーだ」とその人にラベルを張る。つまり、おぼろげだったイメージを、明確な言葉としてのイメージに当てはめるわけです。
そして面白いことに、明確なラベルを張った瞬間に、「コントローラー的なところは確かにあるが、そうでないところもある。本当はどんな人なのか?」と、その人に対して改めて関心が向くのです。
その人に対する他者のフィードバックを知る時にも、まったく同じことが起こります。そのフィードバックに共感することもあるし、自分とは違うと思うこともある。そして、そのプロセスの中で、「本当はどんな人なんだろう?」と、その人そのものに興味が湧く。「フィードバックをする側」に起こるプロセスそのものが、その人との新しい関わりを作る出発点になるのです。
今回、28人のスタッフがこのフィードバックに協力してくれました。
率直なフィードバックをくれた一人ひとりのスタッフに感謝します。
スタッフには、私に対するフィードバックを通して、私のイメージにどのような変化や拡大が起こったか、聞かせてもらおうと思っています。
「私の思っている私」
「相手の思っている私」
コミュニケーションにとっての真実は、「相手の思っている私」の中にあります。なぜなら、事実である私と、そのイメージの間にどんなに大きな差があったとしてもその人にとっては、「その人が思った私」が私なのですから。
「私のことをどのように思っているのか」なるべく多くの人に聞いてみたい。そして同時に、「私の周囲にいる人の、今まで気づいていなかった側面をたくさん知ってみたい」と思うのです。
※「タイプ分け」とは...
臨床心理学、組織行動学などをベースに、人のコミュニケーションスタイル、パターンを4タイプ(コントローラー、プロモーター、サポーター、アナライザー)に分類し、自身がどのタイプに当てはまるかをチェックするものです。
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