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『幸福度』と『上司』
2011年11月02日
私が社会人になったばかりの頃、当時の上司と一緒に、ある仕事を担当しました。10ヶ月ほどの期間でした。
その仕事が終わった時、上司に、「この仕事、お前と一緒にやれて楽しかったよ」と言われました。この言葉がとても嬉しくて、当時の自分の気持ちや、その後、がむしゃらにこの上司に認めてもらおうと頑張った気持ちは、今でも私の心の中に残っています
同志社大学の太田肇教授は、上司からの承認(ほめる・認める)の効果を正確に裏付けようと、3年間に渡る実証研究を行いました。
その結果、「大企業、中小企業、正社員、派遣社員の違いにかかわらず、上司の『承認(ほめる、認める)』が、明らかに部下のモチベーションを高めている」という結果が導かれたのです。(※1)
上司の影響はさらに大きいという調査結果もあります。
世論調査で有名な米国のギャラップ社は、50年以上も前から、世界中(今では150ヶ国以上)で「幸福度」について調査をしてきました。(※2)
ギャラップ社によると、「あなたは今の仕事が好きですか?」の質問に「Yes」と即答したのは20%。にもかかわらず、調査の結果では「人生の幸福」に最も大きな影響を与えているのは「仕事」でした。
仕事の幸福度が高い人は、そうでない人に比べて「自分はすばらしい人生を送っている」と思う割合が2倍も高いのです。
では、仕事の幸福度に最も大きな影響のある要因は何なのでしょうか?
それは「上司」です。
調査によると、仕事への熱意を失う危険が最も高いのは、「自分の上司は、部下である自分にまったく関心を持っていない」と感じる時なのです。
もし上司が「部下の発言にまったく関心がなく、部下がどんな状態にあるか気にしない」人だと思われているとしたら、「そのチームメンバーの40%以上は、職場に対して強い不満を感じ、自分の仕事にまったく熱意が持てず、仕事に何らかの実害をもたらす可能性」があります。
逆に、上司が「部下の強みに意識を向けている」場合は、そのチームで職場に不満を持つ人の割合が1%にまで下がります。
次の質問に、皆さんの組織のメンバーはどのように答えるでしょうか?
「あなたの上司は、あなたを1人の人間として気遣ってくれていると思いますか?」
実は、この質問に「Yes」と答えた人達には、
・職場で業績をあげている
・質の高い仕事をする
・体調が悪くなりにくい
・転職をほとんどしない
・職場で怪我をしない
という傾向があることが分かったのです。
つまり、上司の部下に対する関わり方は、部下の「仕事の幸福度」だけでなく、「人生の幸福度」にも影響を与え、それが業績にもつながっています。部下の幸福度を向上させる上司は、組織の成長に貢献していると言えるのです。
この調査には、他にも次のような興味深いデータがあります。
・世界中で「3分の2以上の人が毎日仕事が終わるのを待ち望んでいる」
・一番楽しくないのは「上司と一緒の時間」である
etc......。
一連の調査結果を見ていて、私は、「この状況を変えるために、自分はコーチとして世の中にどのような貢献が出来るだろうか」と考え始めました。
「自分にそんな力があるだろうか」と自分自身に問いかけた時、ふと新入社員の時に先の上司から言われたことを思い出しました。
「力というものは、世の中に貢献したいという思いの強さに比例して、与えられるんだよ」
【参考文献】
※1 『承認とモチベーション』 太田肇(著)(同文館出版刊)
※2 『幸福の習慣』トム・ラス (著)、ジム・ハーター (著)、森川里美(訳)(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)
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