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変化への処方箋

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「breakeven pointまで、平均6.2か月」

これは、210社のCEOや社長が、自社の管理職の貢献が新任後プラスに転じるまでに要する期間について推定した結果です。(※1)

私たちは、この最初の半年という期間の中で、孤独と混乱に向き合うリーダーたちを数多く目にしてきました。大手メーカーの販社社長A氏もそのひとりでした。

「やれることはやってきたと思う。しかし、何かが違う......業績を上げなければ、後がない。今、自分が変わらないと......」訴えかけるような視線と、急いた言葉から、社長の不安がひしひしと伝わってきます。

「コーチの役割は、変化を加速させることです。ひとりでやって1年かかるところを数か月短縮させたいなら、ご協力できると思います」こうして、直ちにコーチングが開始されました。

A氏との最初の対話は、「スタイル」に関するものでした。そもそも、大きな変化に直面した場合、多くのリーダーが起こす代表的な反応パターンがあります。それは、無意識に「自分の得意なやり方」に回帰しようとするというものです。

A氏は、元来、周囲と協調し、和の精神を尊重しながら「周囲を元気づけるやり方」を得意としていました。環境変化に際し、部下と目線を合わせ「団結しよう、一緒に頑張ろう」というメッセージを送り続け、組織に凝集性をもたらしていったのです。しかし、気がつくと、その先の見通しが不明確であるために徐々に停滞が生まれ、士気の低下が起こっていました。

A氏自身は、そのやり方を「自分らしさへの原点回帰」と話していましたが、結果が伴っていませんでした。A氏は、部長から社長へと役割が変わった後も、従来の自分の成功パターンに頼っていたのです。

下記は、A氏の部下に実施したインタビュー結果の一部です。

「Aさんが営業部長の時代には、大変お世話になった。人物として、とても尊敬している。しかし、今は、部長ではなく、"社長"をやってほしい」

「社長は耳を傾け、理解を示してくれる。しかし、それは今、必要なことではないと思う。明確な方向性を示し、トップにしかできない思い切った決断をしてほしい」

A氏は息をとめ、内容を一つひとつ噛みしめるように頷きながら文字を追い、最後にぽつりと言いました。

「自分は、未だに営業部長のままなんだな......」

ある調査(※2)では、役割の変化とリーダーシップの関係について、下記のように指摘しています。

「野心的であるべきミドルマネージャーが、豊富な知識と経験を有するシニアマネージャーの如く意思決定をすれば、失敗する可能性が高い。逆に、シニアマネージャーがラインマネージャーのように振る舞っても、同じはめになる」

自身の役割の再定義

A氏は、さっそく、自身の役割の再定義を始めました。

  • 社長とは何か?
  • 社長と部長は何が違うのか?
  • 社長に必要なリーダーシップとは何か?

しかしその一方で、A氏は自身の持ち味を失うのではないかと不安になり始めました。本当に、自分のやり方を全て一新する必要があるのか、と。

しかし、部下は、そのような要求をしていたわけではありませんでした。

「A社長の"らしさ"を失う必要はない。その人柄だからこそ、わたしたちは社長の厳しい決断も受け入れられると思う」この部下のコメントを改めて読み、A氏は決断しました。

「持ち味は今さら、変える気はないし、変えられない。リーダーシップとマネジメントの軸足の置き方を変えよう」と。

すなわち、「変化に適応すること」を、「過去の成功パターンにしがみつかず、全く新しい方法を取り入れること」ではなく、「自分らしさを守りながら、周囲の要求に対処すること」と理解したのです。

リーダーに求められる「変化への処方箋

リーダーに求められる「変化への処方箋」、それは、

  • 既にあるものを活かしながら、必要なものを付加していくこと
  • 「らしさ」を維持し、新しい役割にマッチすること

この相反しそうな2つの要素を両立させること、ではないでしょうか。

リーダーが変化に直面した時に有効なシンプルなステップ

そして、リーダーが変化に直面した時、シンプルに次のステップを辿ることが有効と考えます。

  1. 自分のスタイルを知ること
  2. 周囲の要求を知ること
  3. 両者を包含する新しい役割を再定義すること

「社長として、全社ビジョンを強く打ち出し、やりたいことを自らの言葉で明確に語り続ける」
「現場実務は部下に任せ、部下をコーチし、部下を主体的なリーダーにする」

今、A氏は、新しいリーダーシップの獲得に向けてチャレンジを始めています。

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【参考文献】

※1:THE FIRST 90 DAYS

 Critical Success Strategies for new leaderes at all levels

 Michael Watkins

 P.16

※2:コーン・フェリー・インターナショナルによる12人のグローバルリーダーへの調査結果

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