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リスク管理と危機管理

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先日ある会合で、東京大学法学部・大学院法学政治学研究科教授、藤原帰一先生の講演を拝聴する機会がありました。

先生の専門は国際関係論ですが、その時の講演テーマは「リスク管理のパラドックス」。

「リスク管理」は事が起こる前の話。
「危機管理」は事が起こってからの話。

私の不勉強のせいもありますが、「リスク管理」と「危機管理」は根本的に全く異なるものだ、という先生のお話に、目が開く思いがしました。

3.11「以前」と「以降」の日本政府の対応を、9.11「以前」と「以降」のアメリカの政府の対応と比較しながら、日本の「リスク管理」と「危機管理」の問題点について、とてもわかりやすく説明してくださいました。

とても印象深かったのが、一般的に日本人は「リスク管理」に対しては関心が薄く、「危機管理」に関しては関心が高くなる傾向があるという話。

つまり、何が起こるかわからない不確かな未来に対して先手を打つようなことはあまりしないけれど、いざ、事が起こってしまったら、急速に事態の収拾を図ろうとする、というのです。

事態の収拾を急ぐというマインドが良きに働けば、あっという間に修復されたあの高速道路のような成果を生み出しますし、悪しきに働けば、情報隠しのような行動が生まれることもあります。

先生の話のフォーカスはあくまでも政府や官庁の対応にありましたが、企業にも全くもって当てはまる概念であると思って聞いていました。

私の知見の範囲ですが、明らかに日本企業も、というより、日本人の企業リーダーは、「リスク管理」に対する意識が弱く「危機管理」に対してはなかなかの腕を見せる。

「リスク管理」というのは、まだ見ぬ未来のことですから、判断するのがとても難しいわけです。

主力商品がまだ売れている、しかしその寿命は長くはないかもしれない、というときに、はたして、今から新たな主力商品の開発に向けて大型の投資ができるか、ということです。

10%の確率で1000億の損失が見込まれるとします。その対処には100憶かかる。その時に100億を決裁できるか。

合議制のもと、集団で物を決めがちな日本企業にあって、ここでリーダーシップを発揮して「やるぞ!」と言い切るのは、なかなか難しいのでしょう。それが確実に起こるという論証はないわけですから。

「まずいとは思うけど、今はまだ大丈夫じゃないか」リーダーがそう判断したことによって、今、どれだけ多くの日本企業が困難に直面していることでしょうか。

一方、日本企業は、3.11後、あるいはタイの洪水に際しての動きを見ても、いざ何か起こったときに対処するスピードは非常に速いように思います。東北を視察した投資家のウォーレン・バフェット氏が、「日本にはまだまだ投資に値する企業がたくさんある。日本は前に進んでいる」と言ったのはとてもよくわかります。

事が起こったときには、ある意味で「なぜそれをやるのか」の「大義名分」がありますから、リーダーは方向を示しやすいのかもしれません。「これをやるぞ!」と言える。

そう考えると、日本企業のリーダーが収斂しなくてはいけないのは「危機管理」ではなくて「リスク管理」なのかもしれません。

何か起こる前に、常に先を読んで、未来を予測して、方向性を打ち出していく。好調なときでさえ、風を読んで次のうち手を考える。

では、どうすればリスク管理能力は高まるのか。

藤原先生は、最後に「(政府も官庁も)どんなリスクも無視してはならない。いかに確率の低いリスクでも無視してはならない」とおっしゃっていました。

これは企業のリーダーへのメッセージとしても当てはまることと思います。まずは、そういうマインドを持つことが、リーダーとしてのリスク管理能力を上げるのでしょう。

加えて私が思うのは、リーダーだけに「リスク管理能力」の負担を負わせずに、なるべく多くの社員で何がリスクかを話し、言語化し、共有するのが大事ではないか、ということです。「リスクは何か?」という問いを、みなが日ごろから持ち歩き、それについて考えることを文化にする。そうすると、いざ、リーダーがリスクに関する決定をする時に、その文化が彼ら彼女らの精神的支えとなる。組織全体でリスクを乗り越えようとしているのだ、と。

見方を変えれば、リーダーはまさにそうした文化を率先して日ごろから作る必要があり、社員の想いを代表して、未来のリスクに対する投資を決裁していく。リスク管理能力の高い組織に仕上げていくということが、ますます求められているように感じます。

「何がリスクだろうか」という問いを常に組織で共有する。もちろんその共有をリーダーが牽引する。これこそが今、日本が備えるべきリスク管理術なのではないでしょうか。

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