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他の選択肢を捨て切る
2012年01月25日
あなたの仕事に対するモチベーションは何ですか?
モチベーションは、「モチベーションが高い」「モチベーションが低い」というように「意欲」の意味で使われることが多いのですが、「動機」、すなわち「その行動を決定している原因」が本来の意味です。
ですので、先の質問は、
・あなたはどのような動機でその仕事をしているのですか?
・あなたがその仕事をする目的は何ですか?
・あなたはその仕事を通して何を成し遂げようとしているのですか?
と言い換えることが出来ます。
ピーター・ドラッカーの著書の中に、3人の石切り工の昔話があります。
3人の石切り工が、「何をしているのか」と尋ねられ、それぞれ次のように答えました。
最初の男は、「これで暮らしを立てているのさ」と。
2番目の男は、「上手な石切りの仕事をしているのさ」と。
3番目の男は、「大寺院をつくっているのさ」と。
それぞれの発言は、3人の仕事に対するモチベーション(動機)だと言えます。
この3人のように、同じ仕事をしていても、人によってモチベーションは異なります。
私はこの石切り工の3人を、最初の男から順に、「モチベーションの3つのレベル」として考えています。
レベル1:モチベーションが仕事にはない
(処遇が良い、家から近い、など)
レベル2:モチベーションが仕事そのものである
(自分の能力を生かせる、スキルアップしたい、など)
レベル3:モチベーションがその仕事の先に実現したいものである
(この仕事を通じて○○を実現したい、など)
レベル1の人は、とても困難な仕事を前にすると、「ここまでやっても別に給与が増えるわけではないし......」と、途中で諦める可能性が他のレベルに比べて高くなるでしょう。
また、大きな組織の中では、自分のために仕事をする傾向が強いレベル2の人よりも、同じ目的を共有しやすいレベル3の人についていきたい、と感じる人の方が多いはずです。
モチベーションそのものに善し悪しはないのですが、その人のモチベーションが何であるか、どのレベルに属しているのかによって、その人の仕事の仕方や成果だけでなく、その人が属する組織にも大きく影響するのではないでしょうか。
私はコーチとして、これまで数多くの人の「モチベーション」に関わってきました。その中で言えるのは、「モチベーションは、仕事に対する捉え方次第で、いつでもそのレベルを変化させることが出来る」ということです。
ところで、モチベーションのレベルが「1」にも満たない人が、意外と多くいらっしゃいます。
「今の仕事は、自分がやりたいと思ってやっているんじゃないんです」
「自分から希望もしていないのに、この仕事に異動になったんだよ」
このような、今の仕事を「自分の仕事として選択していない」状態はレベル0(ゼロ)と言えるでしょう。
レベル0の状態にある人が、今の仕事に対する自分のモチベーションについて考え、変化を起こすには、何よりも先に、「今の仕事は自分の仕事である」という心の中での「選択」をしなくてはなりません。
コロンビア大学ビジネススクールのシーナ・アイエンガー教授は、「選択」について長年研究してきました。
わかりやすい事例がジャムの販売実験です。
教授は、スーパーマーケットで2つのパターンのジャムの試食コーナーをつくりました。
1つは、「6種類のジャムを試食できる」コーナー。もう1つは、「24種類ものジャムを試食できる」コーナーです。
時間帯ごとにこの2つのパターンの試食コーナーを入れ替えて実験をしました。
その結果、試食ジャムが24種類のときは買い物客の60%が立ち寄ったのに対し、6種類になると、買い物客の40%しか立ち寄りませんでした。
ところが、それぞれの試食者のジャムの購入率を調べると、6種類だった場合の購入者が30%だったのに対し、24種類だった場合の購入者は、わずか3%だったのです。
このような研究を重ねた結果、同教授は、「人は、選択肢が多いことを望ましいと感じているが、選択肢が多すぎると、"決める"ことを後回しにしてしまう傾向がある」と述べています。
年明けに、Fさんという社長に初めてお会いしました。昨年、大企業の社長として若くして抜擢された方です。
Fさんがこんなことを話してくれました。
「この会社に入社してから長期間、体が弱かったせいで会社を休みがちでした。本当は営業がやりたかったのだけど、あまり外に出られない上に、長時間働くことも医者に止められていました。だから、『この仕事はやりたくない』とか、『こういう仕事をやりたい』なんてことを言える立場ではなかったのです。ただ、今から思うと、仕事の選択肢がなかったことが、僕にとっては良かったのだと思います。『自分にはこの仕事しかないんだ』と決めるしかなかったのですから」
モチベーションがレベル0にあるときは、心の中で他の選択肢をあえて捨て切り、「自分にはこの仕事しかない」という気持ちになってみる価値は多いにあると思います。
モチベーションのレベルは、レベル1から3へと順に進むわけではありません。
自分の仕事をもう一度心から「選択」してみると、これまで全く気づかなかった、レベル3のモチベーションを持っている自分に出会うかもしれません。
【参考文献】
『予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』ダン・アリエリー (著)、熊谷 淳子 (翻訳)
『選択の科学』シーナ・アイエンガー (著)、櫻井 祐子 (翻訳)
『マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則』 P・F. ドラッカー (著)、上田 惇生 (著)
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