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リーダーのエネルギーコントロール
コピーしました コピーに失敗しました今もなお、読み継がれている『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』には、実業家として成功した父親が、息子にストレスマネジメントの大切さを説く一節があります。
「自分の人生をどう生きるかは自分で決めることである。この場合、君には3つの選択肢がある。自分のストレスを無視するか、それを嘆くか、それに対処するか」
「ストレス」とどう向き合うかは、時代を問わず、リーダーが直面する大きなテーマの一つだと言えます。
エグゼクティブレベルのリーダー対象のストレスに関する調査(※1)
米国CCLが、230名のエグゼクティブレベルのリーダーを対象に2006年に実施したストレスに関する調査(※1)では、以下のような結果が示されています。
- 88%のリーダーが、ストレスの主たる原因として「仕事」を挙げている
- 3分の2以上のリーダーが、5年前に比べより高いストレスを職場で感じている
- 80%近いリーダーが、「コーチの存在」をストレスマネジメントに役立てている
(複数回答可)
リーダーのストレスとコーチングの関係
では、リーダーのストレスとコーチングにはどのような関係があるのでしょうか。
まず、リーダーが直面するストレスについて考えてみます。
多くのリーダーは、職位が高くなればなるほど、自身の本音や想いを卒直に語れる場面が各段に少なくなっていきます。つまり、結果的に独りで考える時間が増え、孤立してしまう状況が生まれやすいのです。
ストレス実験でストレス度の高いラットを用意するときには、ラットをグループから引き離すそうです。それは、グループから引き離されると、ストレスホルモンが活性化されるからです。
人(エグゼクティブ)も社会的動物ですから、孤立したり、コミュニケーションが閉ざされると、当然、ストレスが高まります。
一方で、「毎日人と関わる時間を6時間以上持つと幸福度が増し、ストレスや不安が減る」ことが分かっています。(※2)
つまり、コーチはリーダーと関わり、話を聞くことで、孤独になりがちなリーダーと良好な関係(つながり)を構築しそのストレスを緩和する役割を担うことができるのではないでしょうか。
もう一つコーチが担っている役割は、普段周りの人たちからは受けないような直接的なフィードバックをリーダーに伝え、自身の現状を見つめ直す場を提供することです。
コーチに「話を聞かれ」、「フィードバックを受ける」という一連のプロセスの中で育まれた信頼関係が、ストレスマネジメントの一助になっているのだと考えられます。
また、コーチは、相手の「内的統制感」も促進します。
「内的統制感」とは、社会的学習理論で使われる概念ですが、「問題状況を自分の能力やスキルで解決できる」とする信念です。
私が以前コーチングをさせて頂いた、ある企業の役員は、「部下たちのやる気がなくて、売り上げが全く伸びない」とストレスを募らせていました。
そんな中、「部下たちは、本当にいつもやる気がないのだろうか?」「もし、やる気を失っているとしたら、何故なのか?」「部下がやる気を失っていることに対して、上司として、何かしら自分自身の関わりにも原因があるとしたら、何だろうか?」といった問いかけを重ねる中で、「自身の関わりが、部下のやる気を上げる可能性がある」という「内的統制感」を取り戻したことがあります。
部下を「やる気がない、どうしようもない人たち」と考えていた時には、苛立つばかりだったのが、「彼らのやる気を上げるのは自分次第だと考えることでストレスもめっきり減り、徐々に展望が見えてきた」とおっしゃっていました。
コーチは「問いかけ」を通して、クライアント(リーダー)の「内的統制感」つまり「自分でコントロールできる感覚」を引き出しているのです。
この「コントロールできる感覚」が増えれば、仕事でも家庭でも、ストレスマネジメントはより実行可能なものになります。
これが、コーチという存在がリーダーのストレスマネジメントに寄与している最も大きな要因だと私は考えます。
多くの成功したリーダーは、自分なりのストレスと向き合う術を身につけています。
それは、リーダーとして組織のエネルギーを上げるため、ストレスマネジメントを「エネルギーのコントロール」の一部と意味づけ、その重要性を認識しているからではないでしょうか。
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【参考資料】
※1 "The Stress of Leadership"
A CCL Research White Paper
by Michael Campbell, Jessica Innis
Baltes, Andre Martin, Kyle Meddings
※2 『幸福の習慣』 (ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)
トム・ラス/ジム・ハ―ター(著)、森川 里美(訳)
『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』(新潮社刊)
キングスレイ・ウォード(著)、城山 三郎 (訳)
『幸福優位の7つの法則』 (徳間書店刊)
ショーン・エイカー(著)、高橋由紀子 (訳)
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