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自己成長を促進するために
2012年04月04日
「今やっている仕事は、 将来のお前にとって、何の役に立っていると思う?」
私がかつてコンサルタントのアシスタントをしていた頃の話です。
連日連夜の徹夜作業が続き、ろくに寮に帰ることもできず、生気の抜けたボーっとしている顔つきで、大量の資料作成のためにすでに数時間もコピーをとっている私に、かつての上司はこう投げかけたのです。
思わず言葉に詰まりました。
正直、目の前の作業に追われる毎日の中、将来のことを考える余裕などなく、むしろ「雑務ばかりでコンサルタントらしい仕事なんてひとつもさせてくれない。なぜなんだ......」という思いでいっぱいでした。
私は当時、彼の秘書的な仕事をしていました。
講演の資料作り、データ収集、企業分析、出張用のホテルや交通チケットの手配、アポイントの調整、お客様とのやりとり、飲み会の手配......などなど。
そんな私に、次の質問です。
「お前の今やっている仕事は、今この瞬間に、 世界で何人の人が同じ仕事をしていると思う?」
「え? このコピー取りですか?......1万人でしょうか。いや、世界だから5万人? いや、もっと多いかも......しれません」
「じゃあ、その5万人の中で"一番"の仕事をしているか? お前は、"世界で一番"のコピー取りをしているのかい?」
絶句してしまいました。
きちんとやっているとは思いましたが、「世界で一番か?」と問われた時に、自信をもって「ハイ!」と答えられなかった自分。
それからです。
彼も私も転職して離れ離れになり、十数年経った今でも、ふと、この問いが私に降りかかることがあります。
「今取りかかっている仕事は、最高か? 世界で一番か?」
この問いに応えようとしているときが、一番成長しているときかもしれません。
普段、私たちは、心の中で自分に対して「問い」を投げかけています。これを「セルフクエスチョン」といいます。
おそらく、1日に何千、もしかしたら何万ものセルフクエスチョンを投げかけているかもしれません。
問いは、朝起きた瞬間から始まっています。
「いま、何時だ?」......時計をみて、時間を確認し、「今日は、どのネクタイにしようかな?」とクローゼットから1本選択する。
「いつまでだっけ、あの仕事は?」で、スケジュール帳を確認し、「これで、お客様は満足するかな?」で、お客様の立場に立って考えてみる。
通常、人の行動は、こうしたセルフクエスチョンがきっかけとなって、起こります。したがって、これらのセルフクエスチョンが後ろ向きなものだったり、マンネリなものだったりとすると、自己成長のスピードが鈍ります。
自己成長のスピードを高めるためには、日々の生活の中で無意識に起こる問いだけでなく、意図的に自己の成長に向けた「質の高いセルフクエスチョン」が必要です。
普段、あなたは自分の成長に向けて、どんなセルフクエスチョンを投げているでしょうか?
日常で、あなたがつい取ってしまう行動を戒める格言でもいいでしょう。つい見失いがちな視点をリストアップし、それを問いの形にしておくのもよいでしょう。
「私の代わりにプロの経営者が来たならば、その人は何を考え、どんな手を打つだろうか?」
ある経営者は、こうした問いをリストにして手帳にはさみ、毎朝、5分眺めて1日のイメージをわかせ、毎晩、5分眺めて1日を振り返り、点数をつけていらっしゃいました。
1日10分ですが、毎日実施すれば1年間で60時間。戦略と振り返りに毎日時間を投資しているわけですから、大きな違いが生まれるのは当然のことだと言えます。
昨年、残念ながら亡くなったスティーブ・ジョブズ。彼のスタンフォード大学での講演は、伝説の講演といわれていて、YouTubeなどでご覧になった方も多いかと思います。
この講演の中で、彼がセルフクエスチョンをしていたことに触れています。
「私は17歳の時、こんな感じの言葉を本で読みました。『毎日を人生最後の日だと思って生きてみなさい。そうすればいつかあなたが正しいとわかるはずです』。これには強烈な印象を受けました。それから33年間、毎朝私は鏡に映る自分に問いかけてきました。『もし今日が自分の人生最後の日だしたら今日やる予定のことは、私が本当にやりたいことだろうか?』。それに対する答えが『ノー』の日が何日も続くと、私は『何かを変える必要がある』と自覚するわけです」
(スティーブ・ジョブズ氏が2005年6月12日、スタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチより)
私も、先のセルフクエスチョンを含めてトータル10個のセルフクエスチョンを、自分のコーチに渡しています。
1か月に1回、1時間、このセルフクエスチョンを投げかけてもらうコーチをしてもらうようにしています。
今年も早いもので、3か月が過ぎました。新年に立てた目標や新たな挑戦は、いまも続いていらっしゃいますか?
もし、頓挫してしまっているならば、このセルフクエスチョンをコーチに託したり、同僚の誰かにお願いして相互コーチしてみてはいかがでしょう。
さあ、4月が始まります。
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