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部下育成の三拍子

部下育成の三拍子 | Hello, Coaching!
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一般的に、組織のマネージャーやリーダーには、「目標の達成」という大命題と同時に、「部下やメンバーの育成」というもう一つのミッションが課せられています。

すべてのマネージャーやリーダーは、組織にとって最重要と言えるこの2つのミッションを実現すべく、日々奮闘しているのだと思います。


ある大手製造業の営業本部長から、次のような話を聞きました。

「うちの本部の大きな課題は、マネージャーの『部下を育成する』という意識が圧倒的に低いこと。営業マネージャーの意識は、チームの受注目標達成に比重が置かれていて、部下の育成にはほとんど目が向いていない。マネージャーがコーチングを学ぶことで、組織全体で『部下を育てる』ことへの意識を高めたい」

部下育成に関してもっとも大切なことは、「部下を育てる」という意識を持つことにほかなりません。

ところが、組織によっては、売り上げや利益を上げて組織を存続させることを優先するがゆえに、部下の育成に意識が向かない場合があります。数字に追われて、育成に手が回らないのです。

頭では部下育成が大切なことを理解していても、普段の行動レベルで実践できていない。つまり、「本当には理解していない」ということが起こっているのだと思います。

この営業本部長はさらにこう続けます。

「部下との営業同行の時間は、本来、育成の場としてもっとも有効なチャンスのはずです。それが、数字を上げるための場、つまりマネージャー出馬によるクロージングの時間として使われるばかりで、『育成の場』として捉えているマネージャーがあまりにも少ないのが実情です。コーチングを組織導入することで、営業同行を数字を上げるための時間としてだけでなく、『育成の場』としても捉え直し、職場全体で徹底したいのです」

以来、この会社では、数字を上げるためのマネージャー出馬による営業戦略的な同行と、部下を育成する目的での育成同行とを区別し、育成のための同行機会を増やすことを奨励しました。

1年後、この会社内のリサーチによると、育成同行の多いマネージャーは、少ないマネージャーよりも5倍もの時間を育成同行に費やしていることが分かりました。

そして、育成同行の時間の多いチームの売り上げ成績の方が明らかに良い、という結果も出ています。


あるサービス業では、全国で約50の店舗を展開しています。

営業統括の執行役員から、コーチング導入前に組織の現状についてお聞きしました。

「店長の多くは、体育会運動部の出身者が多いので、部下を育てようという意識がとても強い。だが、育成方法として、上からビシビシやる方法しか知らない。先日、店舗ごとに店長に対する部下の評価を調べたところ、評価が著しく芳しくなく、離職者の増加も懸念される。店長にコーチングを学ばせることで、組織全体に変化が起こることを期待している」

全店舗の中でもトップクラスの業績を上げている店長に対するスタッフからの評価の中には、こんなコメントがありました。

「部下の話を一切聞いてくれないので、相談しようという気持ちが起こらない」
「言い方がきついので、何か思っても言い返せない」
「できるだろ? と言わないで欲しい」
「喜怒哀楽が激しく、様子をうかがってしまう」
「正直なところ、いつまでこの店で働けるか不安に思っている」

店長にこのコメントを見せました。店長はしばし絶句。明らかに動揺しているのがわかります。しばらくして落ち着きを取り戻すと、店長は話し始めました。

「自分としては、部下を一人前にしてやりたいと思って、心を鬼にして指導してきた。良かれと思ってやってきたのに、そう受け取られていないことにかなりショック受けている。確かに自分でも厳しすぎると思うこともあるし、周りが怖がっているのもわかっているが、体育会的にビシビシやるやり方しか自分は知らない」

この店長は、コーチングを学び、少しずつですが、毎日実践することを試みました。

1日1回は部下を褒める。1日5分、一人ひとりの部下の話を聞く。

1年後の部下からのコメントです。

「この1年、店長が自ら変わろうとしているその努力に頭が下がります。退職を考えたこともありましたが、自分ももう少し頑張ろうと思います」
「お店が明るくなった」
「厳しさは変わっていませんが、前のように全否定されることはなくなりました」
「部下の話を聞こうとしてくれているのがわかります」

店舗の業績はさらに向上。昨年は、全店舗の中でトップの売り上げを上げることに成功しています。


部下育成では、「意識、機会、スキル」の三拍子を揃える必要があります。

「育成するという意識を持つ」
部下育成のスタートは、「育成する」という意識を持つこと。育成は、この意識をもってはじめてスタートします。組織のマネージャーやリーダーは、自分の意識が売り上げや利益といった組織目標の達成に偏っていないか、時に振り返りたいものです。

「育成の機会を捉える」
部下育成に対する意識がいくら高くても、いつ育成するのか、その機会を捉えることができなければうまくはいきません。営業場面や社内ミーティングなど、具体的に実現可能で、育成の場としてもっとも効果的な場面を捉えておいてはどうでしょうか。

「育成するためのスキルを持つ」
さらに、育成のためのスキルを持つことが大切です。人を育てるためには、ありとあらゆることをする覚悟とそのためのスキルを持つ必要があります。

コーチングは、これらの三拍子をそなえた強力な人材育成の手法と言えるでしょう。

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