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『ちょっとしたコンフリクト』の力

ここに、「過去に一緒に仕事をしたことがない人たち」のチームと、
「全員がずっと一緒に仕事をしてきた人たち」のチームの
2つがあるとします。
大きな成果を出しやすいのはどちらだと思いますか?

ノースウェスタン大学のブライアン・ウィツィ教授は、
1945年から1989年までにブロードウェイで初演された
321本のミュージカルを調査しました。(※1)

事業としてのミュージカルは、観客動員数によって
成功と失敗の差がはっきりと出やすい。
それがこの調査の対象となった理由です。
成功すると公演数は数百回も続くことがありますが、
失敗するとほんの数回で幕を閉じることもあります。

さて、先程の質問には、「全員がずっと一緒に仕事をしてきた人たち」の
チームの方が成功しやすい、と答える人が多いと思います。

ですが、調査の結果は少し違っていました。
「過去に一緒に仕事をしたことがない人たち」のチームも、
「全員がずっと一緒に仕事をしてきた人たち」のチームも、
実はミュージカルが成功する可能性が低いことが分かったのです。

ウィツィ教授によると、
「過去に一緒に仕事をしたことがない人たち」のチームは、
「つながりが不十分で、人びとを結ぶ絆の大半が脆弱」なために
良い作品が生まれにくい傾向がありました。

では、「全員がずっと一緒に仕事をしてきた人たち」のチームはなぜ、
成功する可能性が低かったのでしょうか。

その理由は、一体感はあったものの、
「外部からの創造的なインプットに欠けていたため、
 最初に一緒に仕事をしたときのアイデアを焼き直すだけに
 なりがちだった」からだそうです。

このことは、観客を魅了するような
クリエイティブなアイディアが求められるミュージカルでは
致命的なものだったと言えるでしょう。

皆さんの近くには、「全員がずっと一緒に仕事をしてきた人たち」で
一体感があるけれど、新しい発想に乏しく成果が出ていない、
というチームはないでしょうか。

これまでの私の経験では、
「全員がずっと一緒に仕事をしてきた人たち」のチームは、
たとえ成果が出ていなくてもそのまま組織として
維持される傾向がありました。

特に、そのチームが過去に大きな成果を上げたような場合は尚更です。
人間関係が良好でメンバーの居心地が良ければ、
「一体感のあるこのメンバーなら
 何か新しいことを達成出来るのではないか」、
そんな気がするのも理解できます。

しかし、チームが一体感を維持しつつも
クリエイティブなアイディアを創出するには、
ある程度の「コンフリクト」が必要だと私は考えています。
コンフリクトとは、意見の衝突や不一致、対立のことです。

クリエイティブなアイディアが最も多く創出された時代の一つは
ルネサンスでしょう。

ルネサンスは、メディチ家が、彫刻家や科学者、
詩人、哲学者、画家、建築家などの幅広い分野の人材を
フィレンツェに呼び集めたことで生まれました。

全く違う分野の、価値観の異なる人たちが、
互いを隔てる文化や学問の壁を取り払って触発し合ったことで、
多くの革新的なアイディアが生まれ、
創造性に満ち溢れたルネサンスを生んだのです。

フランス・ヨハンソンは著書『メディチ・インパクト』の中で、
このような、異なる分野が交わる場所を「交差点」と名づけました。

そしてヨハンソンは、現代においても、
例えばアップルの創始者スティーブ・ジョブズのような
革新的なアイディアを生み出す多くの人達が、
このような「交差点」を多く持っていると述べています。(※2)

価値観の違う人たちが集まって、何か1つのことを行おうとすると、
たいていはコンフリクトが起こります。
しかし、そのコンフリクトこそが、
クリエイティブなアイディアを生む、「交差点」となりうるのだと思います。

では、先のウィツィ教授の調査で、
大成功を収めたミュージカルのチームには
どのような特徴があったのでしょうか。

それは、ずっと一緒に仕事をしてきた人たちで一体感のあるチームに、
全く新しいメンバーを少し加えたチームでした。

そこには、
「新しいメンバーの多様性と古い関係の安定性を結びつける
 最善のバランス」
があると、ウィツィは指摘しています。

つまり、このようなチームには、
クリエイティブなアイディアを生みだすコンフリクトと、
それによって生まれる交差点、そしてそのアイディアを実現するために
必要な一体感が兼ね備わっていたと考えられます。

皆さんも、自分たちのチームに、考え方の違うキャリア採用や
外国人のメンバーが加わったことで
新しい気付きが得られた経験はないでしょうか。

ルネサンスにおける彫刻家や詩人は、
異分野の専門家と議論し、コンフリクトから新しいアイディアを得ることで、
本来の自分の仕事に役立てていました。

つまり、彼らはそれぞれが異なる仕事をしていたために、
たとえどんな大きなコンフリクトを起こしたとしても、
何ら問題がなかったと言えます。

しかし、チームで仕事をする私たちの場合は違います。
メンバー同志のコンフリクトは、
新しいアイディアを生むためには必要なものですが、
チームには信頼関係や一体感も重要だからです。

つまり、コンフリクトが必要だとは言っても、
相手を打ち負かすことが目的でありません。
コンフリクトは、過去の経験や考え方に縛られることなく、
クリエイティブなアイディアを生じさせるためのものなのです。

したがって、私たちには、コンフリクトを起こしつつも
強い信頼関係を構築できるようなコミュニケーション力が
欠かせないのです。

互いの利益を主張する激しい意見の対立は
シリアスなコンフリクトです。
それに対して、クリエイティブなアイディアを創出することを目的とし、
意見はぶつけ合うが互いの意見は尊重する、
そのようなコンフリクトのイメージを、
私は「ちょっとしたコンフリクト」と呼んでいます。

エグゼクティブ・コーチングでは、多くの経営者が、
「成果を上げるには従来にはない新しい発想、
クリエイティブなアイディアが必要だ」と言います。

あなたのチームには、
どのくらい「ちょっとしたコンフリクト」がありますか。

【参考資料】

※1
『つながり 社会的ネットワークの驚くべき力』
ニコラス・A・クリスタキス(著)、 ジェイムズ・H・ファウラー(著)、鬼澤 忍(翻訳)

※2
『メディチ・インパクト』 フランス・ヨハンソン(著)、 幾島 幸子(翻訳)

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