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マイナスからの経営

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減速と言われつつも、まだまだ成長続く中国。挑戦の場を求め、前向きな気持ちで赴任されるトップリーダーも少なくありません。

ところが、数ヶ月が過ぎるころ、組織の本当の状態がわかってくることがあります。主要ポジションにある中国人社員がバラバラと辞めてしまう、幹部を集めて自分の思いを話してみても無反応...。

有言「不」実行だった「現地化推進宣言」に対するあきらめや、年功序列の日本型経営による安定志向社員のマインドなど、年月をかけて蓄積されてきた負の遺産の表れともいえます。

新しいリーダーは、赴任して初めて、マイナスからの経営を託されたことに気づくのです。

では、何があれば、いち早くこの状態を抜け出せるのでしょうか。

先日、中国ビジネスを比較的順調に展開しているアメリカ系企業の方に話を聞きました。

彼らは、進出するとまず、現地でのトップマネジメントチーム(トップチーム)の基盤構築に力を注ぐそうです。

ビジョン、ミッションそして戦略を、トップチームの間で限りなく100%に近い状態で共有する。これが、本社から派遣されたリーダーの最初のミッションなのです。

このチームのメンバーには高い報酬が与えられるのはもちろん、職場の待遇やトレーニング、コーチングなど、リーダーとして力を発揮させるための投資も惜しみなく与えられます。

同時に、中国では特定業者との癒着といった不正取引への対応として、メンバー同士が監視役となる本社へのレポート機能も作られます。

一方で、現地法人内のマネジメントは、ほぼすべての権限がこのチームに委譲されます。

言い方を変えると、「権限委譲できるリーダーをチームごと育てあげる」ということです。

M&Aを体験した企業と、それを長年サポートしてきたマッキンゼーのコンサルタントによる『ポストM&A リーダーの役割』(※)では、合併前からトップチームの基盤を構築しておくことの重要性が繰り返し強調されています。

合併時には、緊急度の高い目の前のタスクをこなすことに会社中が忙殺されます。そのような中では、トップチームの基盤構築は後回しにされるか、全く触れられないことさえ珍しくありません。

しかし、トップチームがひとつになりきっていないと、その影響は必ず、合併後の組織統合の際に露呈する、と指摘されます。

同書ではその状況を、

「組織にも『ボディランゲージ』に相当するものがある。利害関係者はそれに反応し、合併を推進している表向きのコミュニケーションと比較して品定めをする。熱意が不足していたり、不適切な妥協が行われていたり、トップチームがいつまでも割れていたりすれば、すぐに感じ取られ、合併会社のそこかしこで複製される」

と表現しています。

M&Aをした企業こそ、経営はマイナスからのスタートです。そのような時ほど、しっかりとタッグが組まれた力強いトップチームが必要である、ということを同書は教えてくれています。

外資系企業のトップチームに対する強いこだわりは、このような合弁、買収の歴史から培ったノウハウなのかもしれません。

日系企業のリーダーがマイナスからの経営に向き合う際に必要なのも、こうしたトップチームなのではないかと思うのです。

ところが、総経理の話では、右腕であるはずの中国人副総経理に手を焼いているという苦労話、副総経理の話では総経理のリーダーシップが足りないという嘆きなど、トップチームのメンバーが、それぞれに異なることに焦点をあて、違う感覚をもって組織を運営しているという現象がみられることがあります。

マイナスからの経営を託されたリーダーが、ひとりで多角的に課題をとらえ、スピード感を持って改革を成すのは困難でしょう。

同時に、トップチームが一体となっていない場合、従業員にはどのようなボディランゲージが伝わっているのかも気になります。

業務上の報告会を超え、出身事業部の枠を超え、トップチームの一人ひとりが情熱をもって、現地法人の発展について侃々諤々の議論をする機会は、ひと月でどのくらい持てているでしょうか。

あなたがもし、トップチームの一員ならば、自らリーダーシップを発揮してトップチームをまとめていくためにチームに働きかけてみてはいかがでしょうか。

あなたがもし、トップチームの一員でないならば、トップチームの姿が組織にどのように映っているかを伝えてみてはいかがでしょうか。

マイナスからの経営を担うリーダーだからこそ、今までと違う組織創りに取り組む好機といえるのではないでしょうか。

【参考資料】
※1『ポストM&A リーダーの役割』
デビッド・フビーニ (著)、横山禎徳/清川 幸美 (翻訳) ファーストプレス出版

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