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君に、いつもやってほしいことがあるんだよ

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「中島くん、私を見て何か気づかない?」

コーチ・トゥエンティワン(コーチ・エィの前身)に入社したての私は、先輩の女性からの突然の質問に、正直、躊躇してしまいました。そんな私に、その先輩は間髪いれずに、

「中島くん、わからないの? 新しい靴を買ったのよ。昨日と今日の変化に気づかないようじゃ、コーチとして失格よ!」

と、明るく笑いながらからかったのです。

2001年の春、転職したての私にとって、あまりに強烈な洗礼であるとともに、アクノレッジ(承認)に対するアンテナが立ち、センサーのスイッチが入った瞬間でもありました。

人にとって、食欲、睡眠欲と同じくらい大きなものが「承認欲」です。

人は、太古の時代から、仲間と協力し合って大きな敵と闘い生き抜いてきた種族です。そのため、チームや組織の中では、「私は、仲間として受け入れられているか?」ということが気になります。受け入れられていないメッセージを少しでも感じると、そわそわしてしまいます。

なぜなら、それは、太古の時代だったら、生存することさえ危ぶまれることだからです。

 挨拶がある
 声をかけられる
 誘われる
 話を聞いてくれる
 相談をもちかけられる
 任せてくれる
 助けてくれる
 変化に気づいてくれる
 成長を指摘してくれる

人は、こうしたアクノレッジが十分に充足していると、安心できます。

もし仮に、あなたの体の中にアクノレッジ銀行があるとして、そこにアクノレッジ金貨が預金のようにいっぱいいっぱいあれば安心ですし、自分から人にアクノレッジ金貨をあげることもできます。

しかし、あなたの中で預金が少なくなってくると、とたんに不安になってきます。もっともっと、ほしくなります。すると、そこからとりたくなる行動は2つあります。

ひとつは、同僚や上司を批判する、非難する、否定する、といった「闘う」態度をとることです。

そして、もうひとつは、内向きになる、元気がなくなる、ミスが多くなる、体調を崩し会社を休みがちになる、といった「逃げる」という態度をとることです。

この2つの行動は、いずれにしても「自分はここにいます。見つけてください。認めてください」という「存在証明」に値します。

しかし、これらの行為は、組織的にはまったく生産性の高まるものではありません。

仮に、職場の中のアクノレッジの量が欠乏してくると、どうなるのか? そうなると、社員の間でわずかなアクノレッジの奪い合いが始まります。

さらに、アクノレッジ金貨が債務超過になってしまっていると、多くの社員たちが一斉に非生産的な「存在証明」を得るための行為に走り、職場はそれで埋め尽くされてしまうのです。

先日発売された「ハーバード・ビジネス・レビュー」に、マサチューセッツ工科大学のアレックス・サンディ・ペントランド教授による興味深い記事(※)がありました。

マサチューセッツ工科大学では、電子バッジを開発し7年間に延べ2500人に装着してもらい、チーム内での各メンバーのコミュニケーション行動を記録しました。

この実験データから、チームの成果を左右するのは、メンバーの資質よりも、コミュニケーションの特性であることがわかったというのです。

その中で、生産性が高く、高業績チームの特徴がいくつかあげられているのですが、とくに次の3点は今回の話しに深く関連します。

・チーム全員が平等で話したり聞いたりする機会がある。また簡潔に話しをすることを心がけている。
・メンバー同士が顔を向き合わせてコミュニケーションをし、会話や身振りに熱意がある
・各人が、チームリーダーを通じてだけではなく、他のメンバーとも直接つながりがある。

職場の中で、いったい、どのようなコミュニケーションがされているのだろうか? その頻度は?量は? 上司からメンバーだけなのか? それとも、メンバー同士で交わされているのか? そして、いま、アクノレッジはどのくらい流通しているのか? 社員たちのアクノレッジ金貨の預金残高は、どのくらいなのだろう?

...など、リーダーは、いつも観察している必要があるわけです。

私はコーチ・エィの創業当時、上司である伊藤守から声をかけられて、こうリクエストされました。いまでもそのときの声のトーン、顔つきはしっかりと覚えています。

「君には、いつもやってほしいことがあるんだよ。この組織にどのくらいのアクノレッジが流れているのか、それをいつも観察していてほしい。そして、もし、それが少なくなっていたら、君の責任でなんとかしてほしい。おそらく、部下は、上司である君には声をかけてくるだろうし、挨拶もしてくれるはず。でも、それはあたりまえなわけで、メンバー同士で挨拶がちゃんとされているのか。昼飯のときに、誰かひとりで孤立していないか? そういうのを見ていてほしいんだ」

あなたの組織では、アクノレッジの流通量はどのくらいですか? 存在証明のシグナルは出ていませんか? 観察してみてはいかがでしょう?

【参考資料】
※「コミュニケーション形態を可視化するチームづくりの科学」
アレックス・サンディ・ペントランド、有賀裕子(訳)
(「DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー」、2012年9月号)

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