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『唐突な要求』スパイラルからの脱却

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「正直、がっかりしました」

コーチングセッションが始まって間もない2月頃、インドネシア着任早々にローカル社員から受け取った手紙を片手に、Aさんはつぶやきました。

着任当初の会議で社員を前に、Aさんは確かに「社長室はオープン。どんなことでも、遠慮せず言ってきて欲しい」と伝えました。

ただ、さすがに、いきなり処遇改善の要求を突きつけられるとは想定していなかったようです。

Aさんが期待していたのは、建設的なアイデアや提言。しかし出てきたのは、「唐突な要求」でした。

収益性が向上した暁には社員に還元する。その日を早く迎えるために、全社一丸となって新たな戦略を遂行する。

そのメッセージが伝わらないのはなぜか。ローカル社員の成熟度が低いからではないか。

自分側に何かできることはないか。

振り返ってみると、着任以来、社長室にいる時間が多く、戦略の立案も自身が主導したもの。社員への説明も、会議の場が中心。

着任から手紙を受け取るまでの期間を振り返り、自分と社員との接点そのものが不足しているのではないか、と思うに至ったAさん。

ある仮説を立て、自らの行動を変えてみました。それは、

・部下との関係構築は、現地の事情に合った方法で行うことが大事
・そしてその方法は部下から直接アドバイスをもらうのがいい
・自分の思いは、関係を構築する過程で少しずつ伝えていくのが効果的

というものでした。そして、それを愚直に実行したのでした。

手紙を受け取ってから半年後、組織の中に変革の芽が生まれていました。部門の壁を越えて建設的な議論を行うローカル社員の姿が、そこかしこに見られるようになったのです。それは、まさにAさんが望んでいた状況でした。


IED(The Institute of Executive Development)のAlexcelグループが実施したエグゼクティブ・トランジションに関する調査結果(※)によると、有能なはずのリーダーが失敗する理由として、「インターパーソナル/リーダーシップスキルが欠如している」がトップに挙げられています。

部下との関係を作り、影響力を発揮する力を持つことがリーダーが成功する要件、ということです。

思えば、ローカル社員にとって、未だ関係性が構築されていない中でのAさんからのトップダウンのメッセージこそ、「唐突な要求」だったのかもしれません。

仮に、それが論理的に正しいメッセージであったとしても。

ローカル社員の手紙は、Aさんからの「唐突な要求」に対する「唐突な要求」返しだった、とも捉えられます。

「唐突な要求」スパイラルに陥りそうな状況から抜け出せたのは、Aさんが主体的にローカル社員との関係性構築にコミットしたことによるものでしょう。

ラマダン(断食月)が終わったインドネシア。Aさんはランチタイムを活用した社員との懇親の場を再開したところです。

【参考資料】
※"Executive Transitions Study 2010"
Alxcel、IED (The Institute of Executive Development)

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