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軽やかにあきらめない

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マーティン・セリグマン博士の『オプティミストはなぜ成功するか』は、人の心のあり方が、その人の生み出す成果に大きく影響することを説いた名著です。

「オプティミスト」とは楽観的なものの見方をする人。逆に、悲観的なものの見方をする人を「ペシミスト」といいます。

セリグマン博士によると、オプティミストは、常に「自分次第で状況は変えられる」と思っている。一方、ペシミストは「どうせ自分が何をしても状況は変わらない」と考えているそうです。

同博士は本の中で、オプティミストの方が、さまざまなことにおいて、ペシミストよりも成功する確率が高いということを、多くの事例を元に検証しています。

・楽観的な生徒は、悲観的な生徒に比べより良い成績を上げる。
・楽観的なメンバーの多いスポーツチームは、悲観的なメンバーが集まったチームよりも多くのゲームに勝利する。
・楽観的な選挙の候補者は、悲観的な選挙の候補者よりも多くの票を集め当選する。

さて、この本の中に、「楽観的な会社はうまくいく」というチャプターがあります。

その章によると、うまくいっている会社では、「人が人に対して楽観的である」ということがわかります。人が人に楽観的であるが故に、仕事が停滞せず、前へ前へと進み、結果として業績が高まる、と。

例えば、部下が上司に対して何かリクエストをする。ところが、上司はそれに対して強くだめ出しをする。それでも、楽観的な態度を有する部下であれば、「自分次第で状況は変えられる」と思い、二度目、三度目の提案を上司にする。

あるいは、上司が部下に仕事を教える。部下はいつまでたっても上司の思うように動かない。それでも、上司は、「自分が状況を変えられる」という信念を失わず、部下に関わり続ける。

つまり、楽観的な人は、人に対して、軽やかにあきらめない。

私は昨年来、「心身統一合氣道」の道場に通っています。創始者は昨年他界された藤平光一先生。王貞治氏の一本足打法の完成を精神面からサポートされた方としても有名です。

その息子さんで2代目継承者である信一先生のブログを先日読んでいました。

その中に、信一先生がまだ幼少のころ、電気を消さなかったり、履物をそろえなかったりすると、お父様である光一先生が、繰り返し、繰り返し、信一先生にやるように伝えたという話が書かれています。

「賢い子でなかった私は、同じことを何度でも繰り返すのですが、父は諦めることなく、声を荒げることもなく声をかけて来ます。何百回と注意されているうちに、電気を消す習慣が出来ました。脱いだ履き物を揃えることも、何度注意を受けたか分かりませんが、これも最後には揃える習慣が出来ました」

おそらく、光一先生は、自分の子どもだけでなく、誰に対してもとてもオプティミストだったのだと思います。

相手がその瞬間は変わらなくても、いつかは変えることができると信じて、自分次第で状況は変えられるという信念を失うことなく、泰然と、焦ることなく相手に関わり続けた。

人に対して、軽やかにあきらめない。そんな方だったのではないでしょうか。

では、人に対してオプティミストである人とペシミストである人は、何が違うのでしょうか。

人が「行動」を起こすときには、その前提として、当然「ある思考」が頭の中を流れます。

さらに、もう少し詳しく見ていくと、「思考」は「質問」と「回答」から構成されています。

朝起きる。「何を今日は着ていこうか?」と自分に問う。「大事な会議があるからネクタイをして行こう」という回答が生まれる。その回答に基づいてスーツを着、ネクタイをしめる、といった具合に。

そう考えると、オプティミストは自分に「人に対して行動をあきらめないような質問」をし、ペシミストは「人に対して行動をあきらめるような質問」をしている可能性があります。

どうも、悲観的な人は、相手が期待する行動をしてくれないと、次に同じような場面になったときに、「相手はどういう反応をするだろう?」と、往々にして相手の出方を気にかける質問を自分にしているようです。

相手の反応を気にしながら質問するわけですから、「よくない反応をされるだろう」という消極的な回答が出る可能性が高くなります。よって、行動は抑制される。

一方オプティミストは、一度うまくいかなかったとしても、次の場面で「今、自分は、この人にどういうアプローチが取れるだろう?」と、自分ができる選択肢を発掘する質問をすることができます。結果、オプションが広がり、行動が促進される。

おそらく、人に対して軽やかにあきらめない人は、常に「自分は今、目の前の人に何ができるだろうか?」と「自分の行動」を問うことができるのだと思います。

私たちは、コーチングを通して、組織の中の人が、人に対して楽観性を高めることを支援したいと思っています。

人に対してオプティミストな人を育てる。

世代の違う人、価値観の違う人、国の違う人に対して、決してあきらめない楽観性を持っていく。

そのために、外側から質問をし、周りの人に対する不断の行動を生み出す問いが、その人の中に生まれるようにサポートをしていく。

人に対して軽やかにあきらめない組織の構築。それが私たちが担っている大きなミッションです。

【参考資料】
『オプティミストはなぜ成功するか』(講談社)
マーティン セリグマン (著)、 山村 宜子 (翻訳)

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