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リーダーとしての『ブランド』を変える

リーダーとしての『ブランド』を変える | Hello, Coaching!
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2,000人を率いるCEOのA氏は、組織へのメッセージ浸透に課題を感じていました。

・メッセージをフォロワーである全役員、社員に伝え、浸透させる
・フォロワーが意欲的になって、自らの業務行動にリーダーの意思を反映させる

こうしたイメージを持ちながらも、組織はなかなかそうならない。

A氏が社員に対して語るメッセージを実際に聞きました。

内容は、非の打ちどころのない位にクリアで、筋道立ったロジックでした。にも関わらず、社内からは「方向性が見えない」というコメントが繰り返し、聞こえてくるのです。

A氏の周囲の方にインタビューする中で、私はある不思議なことに気づきました。

役員から社員に至るまで、CEOが発信するビジョンや戦略自体には否定的な反応はなかったのです。

「CEOのやりたいことは分かっているつもりですが...」

否定的ではない、かと言って腑に落ちたとも言えない、そんな言葉が聞こえてくるのです。

非の打ちどころのないメッセージが、どうして「届かない」のか。

その要因を分析するために、周囲からのフィードバックを整理し、A氏と確認しました。

・聡明さや決断力
・責任感や変革志向
・これまでの比類ない実績

そこには、A氏の実力に対する畏敬の言葉が並んでいました。

一方で、多くの方が付け加えるように語ったコメントには、下記のようなものがありました。

・論理的な分析や判断に基づくため、理解しやすい。しかし、どことなく評論的に感じる
・内容がクリアなため、左脳では分かるが、右脳(心)に響かない
・そもそも、語っている本人がワクワクしているように見えない

A氏は、暫く無言でコメントを見ていました。

・頭の回転が速い。すぐに断定的に結論を出す
・怖く冷たい印象がある。実際、そのような人物という噂も聞く
・あまり外交的ではなく、社内外の人物とコミュニケーションの機会が少ない

そして、ポツリとつぶやきました。

「伝わっていないのは、メッセージではなく、私自身の人間像なのではないか? 私は、『私のこと』を伝えていない」

その後、A氏は、周囲のフィードバックから得た気づきのポイントをまとめました。

・CEOのメッセージを、「役職や権力を持つ人からの一方的な指示事項」として聞く限り、社員の心には響かないこと
・ひとりの心の通った人間の口から出る言葉として相手に伝わってはじめて、言葉は人を動かすこと
・そのために、自分が与える印象、そしてコミュニケーションを変えることに挑戦すること

そして、次のことを早速実践することにしました。

1.役員以下の全社員とのコミュニケーションの頻度と接点を最大限増やす
2.断定的に切り捨てる言い方はやめる。理解を示し、聞くコミュニケーションに移行する
3.仕事の話だけでなくプライベートな話を多くする。特に自らの生い立ちや信念・価値観を意識的に口にする

実際、ある研究(※)では、高業績チームを生み出すコミュニケーションについて下記の点が指摘されています。

・合理的でないと思われる私語が、高い業績につながっている
・チーム業績の差異の35%は、チーム内における対面でのやり取りの回数によって説明できる
・個人の論理的思考や資質がチームの成功に果たす役割は、想像よりもはるかに小さい

その後、A氏は、下記のことをおよそ9カ月間、徹底しました。

・毎月1度、全役員と1対1で面談を継続すること
・昼食時に、社員数人と弁当を囲んで話をすること(希望制)
・プレゼンテーションでは、自分の生い立ち、苦労、信念、その他プライベートな話を充実させること
・コミュニケーションでは、表情豊かに、身振り手振りを交えて語る。また、頷きながら遮らずに聞く姿勢を徹底すること

半年が経過した頃から、全ての役員がA氏の変化を実感し始めました。そして、身近な社員からは、風土の変化を指摘する声が上がり始めました。

以下は、昼食会に参加したある社員のコメントです。

「以前は、『CEOという遠い人が、何かを言っている』位の感覚だった。最近は、『自分の知っているAさんが、近くで語っている』と感じ始めている。自分の中に、この人のために何ができるのか、という気持ちが起こってきている」

このコメントを読んで、CEOは初めて満足げな表情を見せました。

「『CEOの言葉』としてでなく、『私の言葉』として伝わるようになってきたのかな」

A氏は、こうして自分の「ブランド」を再構築しています。

伝える「内容(What)」の信頼性を超え、伝える「人物(Who)」への信頼を得る。

A氏は、自身が発するメッセージの伝達力が高まる環境を、自ら作り出しました。

リーダーが、メッセージを発信し組織に浸透させる。いま、多くのリーダーがチャレンジしていることではないでしょうか。

A氏のこの取り組みは、リーダーシップ・チャレンジに対する、1つの有効なアイディアを示してくれているように思います。

【参考資料】
※「コミュニケーション形態を可視化するチームづくりの科学」
 アレックス・サンディ・ペントランド、有賀裕子(訳)
(「DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー」、2012年9月号)

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