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エグゼクティブ・コーチングと自己認識
2012年10月10日
私たちが扱っている重要なコーチングテーマの1つに、 エグゼクティブの「自己認識」があります。
エグゼクティブという役割を務めるためには、エグゼクティブという役割と自分との間に「間」が必要になります。
あまりにも一体化してしまうと、エグゼクティブという役割の性質に、自己が浸食されてしまいます。
エグゼクティブの持つ権威や権力は、本来自分自身の特性ではないにも関わらず、あまりにも役割と一体化してしまうと、自分がそうなのだと誤解してしまう可能性があります。
どんな役割であっても、その役割と自分との間に「間」をもち、役割と距離をもち、役割を観察する。
同時に、自分自身のことも観察する必要があります。
そうすることで、機能的に役割を務めることができるようになります。
「自己認識」はエグゼクティブが役割とマッチして、ハイパフォーマンスを実現するための、大前提になります。
ここに 興味深いリサーチ結果がありましたのでご紹介します。(※1)
Korn/Ferry International 社が、企業エグゼクティブたちの「自己認識」のレベルを見るために2,750人以上にリサーチした結果は、驚くべきものだった。
リサーチの対象となったエグゼクティブの79%には、最低でも1つの 「ブラインドスポット」があることが分かり、また、40%には、最低でも1つの「隠れた強み」のあることがわかった。
「ブラインドスポット」 とは何か?
これはエグゼクティブが、ある特定のスキルを自分の最大の強み(strongest)だと認識しているものの、周囲の他者は、逆に、エグゼクティブの弱点の1つだとみなしている。そのような状態を「ブラインドスポット」と呼んでいる。
「自己認識」には、自分のブラインドスポットを発見することも、当然含まれます。
「自己認識」と「自己分析」は似て非なるものです。
自分自身の性格を分析したり、自分自身の心理分析を試みたりすることが自己認識であると誤解される傾向がありますが、EQの分野で権威であるWeisinger氏は、「自己認識」について次のように述べています。
「『高い自己認識 (high self-awareness)』は、自分自身のビヘイビアを観察し、モニターすることによって可能になる。」(※2)
そして、それは、エグゼクティブの仕事上欠かせない能力なのです。
自分の「行動」を観察する視点をもちつつ、その行動がどのような影響を周りと自分に与えているかというフィードバックも受け取れるようになることが、より深い自己観察につながるでしょう。
実際、「高い自己認識」は、人が、日々職場で遭遇する「1対1の関わり(interpersonal interactions)」に反映されています。
人は「関係」の中に存在しているという前提に立てば、個というのは、完全に孤立しているのではなく、関係を保った「個」なのです。
「個」の能力も単体で存在しているわけではなく、「関わり」の中で初めて顕在化するものです。
これまで、「自己認識」というと、関係性から切り離した単体として「自分はどうか」を見ていたところがありますが、人間の性質上、無理を感じます。
私は、「自己認識」を、一人ひとりのユニットではなく、さまざまな「関係」の中で表現される「人」の意識であると捉えています。日々の会話の中に映し出される「自分」、会話の中で再認識される「自分」。こうした「解釈」と「再解釈」のプロセスが、「自己認識」へとつながると考えています。
エグゼクティブには、「自己認識」を高める努力が不可欠です。
同時に、それを可能にする「会話」「コミュニケーション」に対する意味も変えていく必要があります。
それは、単に「情報交換」なのではなく、自分と現実を認識する唯一のプロセスであるということを。
【参考資料】
※1 Survival of the most self-aware, 2012 The Korn/Ferry Institute
※2 Hendrie Weisinger"Emotional Intelligence at Work",Jossey Bass,1998
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