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リーダーは『意志力』をマネジメントする
コピーしました コピーに失敗しましたリーダーにとって「意志力」はとても大事な力のひとつです。
特に、いまのような複雑で不安定で混沌とした環境の中では、強い「意志」をもって事にあたっていかなければ、自身も組織も道を失ってしまいます。
しかし、「意志力」というエネルギーは、「ガス」などのエネルギー資源と同様に常に無尽蔵にあるわけでないという実験結果があります。
1990年代に心理学者のRoy Baumeister氏らの行った実験は、その代表的なものです。
ある時間、何も食べないように指示し、空腹感でいっぱいになった大学生の目の前に、チョコチップクッキーとラディッシュを盛ったボールを用意します。
第1グループには、ラディッシュは食べてもいいがクッキーは食べないように指示し、第2グループには、ラディッシュもクッキーも食べていいと指示します。そして、第3グループにはコントロール群として食べ物は何も用意しません。
そして、その数時間後に、パズルを解くという課題を与えます。実はそのパズルは、解決が不可能なもので、測られていたのは、「それぞれのグループがどの位の時間でパズルを解くのを諦めるか」でした。
結果は、第1グループはわずか8分間で諦めてしまうのに対して、第2グループと第3グループは20分もの間、パズルを解くことに集中できたと言います。
つまり、第1グループは、「チョコチップクッキーを食べない」ということに、意志の力を使い果たしてしまったというのです。
ここでの大事なポイントは、クッキーを我慢することと、パズルを解くことは別の事象であるにしろ、「意志力は同じエネルギーを使っている」ということです。つまり、「意志力」は「筋力」と同様に、使えば使うほど、一時的に低下していくということです。
私がコーチングしている、ベンチャー企業の社長は、この3年で1人で起こした会社を500人までに増やした実績をもちます。
その社長から、最近、「なぜか、部下とうまくいかない」という話を聞きました。理由は、どうやら社長自らの不機嫌さが原因で、普段の自分だったら、ありえないような対応を部下にしてしまうことが多いというのです。
さらに最近の状況をよく聞き出すと、会社の第2成長期に向けてここしばらく大きなプロジェクトが続き、社長としての判断や決断を求められる場面が大幅に増えているというお話でした。スケジュール帳を見ると、立て続けに、社長にしかできない案件の対応が続いているように見えました。
そこで、社長や秘書の方と相談して、「意志力」を最も必要とするような仕事を赤、少しだけ必要な仕事を黄色、ほとんど求められない仕事を緑と色分けしてみると、スケジュール帳にいくつか、赤色が集中的に固まっている部分がありました。
そこで、できるだけ、赤色の仕事を分散させるようにスケジュールを調整していきました。
結果は、「仕事の量や難易度は以前より増しているが、前に比べ、自分のエネルギーが持続している感じがあるので、妙に不機嫌になるということもなくなり、部下への対応も以前のような感じにもどっている。集中力も増している印象だ」ということでした。
絶え間ない「意志力」の継続がエネルギーの枯渇を促し、普段では怒らないような場面でもついつい部下を怒ってしまう、という自制心を欠いてしまう行為につながったようです。
「意志力」の消耗には、睡眠時間や栄養などの要因が関係していることも多々あるでしょう。また、そのリーダーの経験や器によって「意志力」の資源の多寡もあると思います。しかし、時にリーダーは、自身と組織を動かす「意志力」というエネルギーを枯渇させないために、自分なりのマネジメントを意識して持つ必要があるようです。
【参考文献】
Roy F. Baumeister, John Tierney (2012)
Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength.
Penguin Books
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